vol.4 「フジテレビ問題」の本質
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Q1:何があったのか?
A:中居正広氏が、2023年6月に当時フジテレビ社員の女性に性暴力を行い、その解決金として数千万を渡したことが、翌年12月に複数の週刊誌で報道された。背景には、テレビ局幹部が高視聴率タレントに自分の局を選んでもらうために、そのタレントたちが好意を持っている若手アナウンサーなどを参加させる食事会を開催したことだ。その食事会で参加者は、性的な言動に晒されることを容認したり、合意のない性的行為を強要されたりした。
今回、フジテレビ幹部が上記のような機会を中居氏に複数回に渡り提供し、そこで起きた性暴力だった。さらに、このような機会提供は、局として1つの「業務」と化していたことが明らかになった。報道後、フジテレビの株主であるライジング・サン・マネジメントが事実確認の公開書簡を送付し、複数の大手企業がCMを打ち切りにした。当初フジテレビ側は関与を強く否定していたが、新事実も発覚し、問題の深刻さから1月27日に港浩一社長、嘉納修治会長が辞任し、同日10時間にも及ぶ記者会見をし、遠藤龍之介副会長の辞任予定も決まった。その後中居氏は芸能界を引退し、個人事務所も廃業する予定としている。
Q2:性加害、問われるメディアの姿勢とは?
A:加害者、被害状況も明らかにされたにも関わらず、どこか「分かりにくい」印象がつきまとうのはなぜか?
1つに当初から「女性トラブル」と報道され続けている点だ。受け取る側は、深刻な性暴力とは認識しなくても済む効果を生み出し、より事件を過小評価してしまう。その結果、被害者バッシング、加害者擁護が登場し、ますます被害の深刻さから距離が出るのである。
2つ目は、誰のためのプライバシー保護なのかである。近年では性暴力の「二次被害」(解決過程の被害)という言葉もある程度周知されつつあることから、被害者のプライバシーを守ることが求められている。しかし「プライバシー保護」は一律に適用されるべきではなく、事案の性質や社会的影響力を踏まえた上、権力の不均衡や不正が放置されないかを監視し、その上で適用範囲を被害者中心主義的アプローチにしなくてはならない。
Q3:「私たち」の責任とは?
A:性暴力に関する報道・議論が被害者と加害者の間での「事実関係」や「認識のズレ」に集中し、個人の責任にのみ焦点を当てられがちだ。しかし、問題の根底には、個人の行動や責任だけでなく、それを生み出す社会構造、業界の権力関係、そして経済的な利益追求といった要因が絡み合った構造がある。特に今回のようなメディアやエンターテインメント業界など、権力構造が強い組織の中で起こる性暴力は、個人の意思・尊厳・人権よりも組織の利益が優先され、その結果として被害が生まれることが多い。(以前、旧ジャニーズの性暴力についても寄稿しているためご覧いただきたい※)
性暴力を根本から解決するための重要な一歩は、権力の不均衡からくる強者優先の歪んだ社会構造・業界の変革だ。そのためには、私たち一人ひとりの認識や行動を変えなくてはならないし、メディアの接し方も同様だ。
被害者が救われる一番の方法は、性暴力被害があった社会から、別の社会へと変わったことを実感できる中で生き続けられることだ。そのために私たちは社会変革の努力を惜しんではならない。
※本誌2023年12月号「ニュースの深層」
参考:
・”MeToo Outrage Leaves Japanese Broadcaster Without a Single Advertiser”Jan. 24, 2025 NewYorkTimes https://www.nytimes.com/2025/01/24/world/asia/japan-me-too-sex-scandal.html?searchResultPosition=2?camp=7JFJX