vol.5 パレスチナの今後
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家屋破壊直後の様子。瓦礫の小山と家財を運び出す西岸地区の子どもたち(2025年4月7日、筆者撮影)
Q1 入植者って誰のこと?
一般的な定義でいえば、占領地に移住したユダヤ系イスラエル人の呼称です。イスラエルの人口(1000万人/2024年)の8%弱、ユダヤ系人口の10%以上がこうした場所に居住し、過去3年間の人口増加率は15%にまで上昇しています。入植は、国際法に違反した行為ですが、国際社会はその存在を実質的に不問にしています。オスロ体制(※1)によって、「パレスチナ国家の独立までの暫定的措置」として「現状の維持」が承認されているからです。
仮設住宅を自ら運び込み、資源のある場所や交通の要衝に当たる場所を占拠する入植者も存在します。「自衛のため」という国家の後押しもあって銃を携帯する入植者が急増し、パレスチナ人の居住区に侵入、発砲や放火を行うケースも多数報告されています。アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド』でも、イスラエル軍兵士を伴った入植者が住民を殺害するシーンが記録されています。

『ヨルダン川西岸拡大地図』。オスロⅡ合意(1995)によって、パレスチナ人が限定的自治を行える場所は、西岸地区の40%以下(エリアA、B/赤色)に。入植地や道路、隔離壁に取囲まれ「飛び地」の寄せ集めのようになっている。西岸の60%以上はイスラエルが準領土として支配(エリアC/黄土色)、パレスチナ人家屋の破壊が頻発している ※国連等の地図を元に筆者が作成
※すでにイスラエルはイギリス委任統治時代の「パレスチナ」の、78%を自国領にしている。残りの22%のうち20%以上を占めるのが西岸地区だ(ガザ地区は1.3%)
Q2 今後、ガザ地区はどうなるの?
1月19日発効の停戦は、アメリカがイスラエルに一時的に待ったをかけ、ハマスと調整したもので、一定数の人質を奪還した後に、それをイスラエルが一方的に破棄した恰好です。あくまで限定的なもので、地域の安定、根本的な解決とは無縁のものです。
イスラエルが掲げるシオニズムとは、「パレスチナ」の全土、100%の領有を理想とする政治思想です。早期解決のために最小の領有割合を約80%とし、残りの場所でパレスチナを独立させて分離することを主張する少数派(左派)も存在しますが、理想は、「パレスチナ全土」の領有です。そのためには、次の二つの実現が欠かせません。①パレスチナ人から土地を奪う、②「パレスチナ」から、パレスチナ人口を放逐する。
1948年の第一次中東戦争の結果として境界線が引かれ、人口のほとんどが「土地を奪われた」難民となったガザ地区は、正に①を象徴する「収容所」です。そして完全管理下に置いたパレスチナ人口に対する「②の本格化」、それが「10.7」だと私は捉えています。
実は、国際社会こそが、②への移行を助長させていたと言えます。イスラエルと共同で封鎖体制を作り上げ、地区から経済活動を消滅させたのです。ですから、一時的にイスラエルが②を休止しても何も解決しません。「収容所」であることに変わりはないからです。今後は、国際社会が莫大な経費を投じて「収容所」を維持させるのか、それとも「収容所」としてのガザ地区を消滅させるのか、ほぼその二つに方向性は絞られます(後者+欧米やイスラエルが利益を得るための計画が、「トランプ案」※2でした)。
補足しておくと、今後は必ずヨルダン川西岸地区(東エルサレムを含む)で、①の強度がより強まります。イスラエルにとっての「本丸」は占領地の面積の大半(94%)を占める西岸地区ですから。領土拡大に向けた「前線基地」が、Q1で解説した入植地なのです。
※1オスロ体制~1993年にアメリカの仲介で締結されたイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)の間の暫定自治合意(オスロ合意)に基づき、両者が交渉によってパレスチナの独立を決定する体制。エルサレム、国境線、入植地、水資源、難民等の問題について協議されましたが、1999年に交渉期間が終了。国際社会の承認のもと、入植地の存続など、イスラエルに都合の良い枠組みだけが現在まで継続されています(ハマスはPLOに未加盟)
※2「トランプ案」~2月4日、ガザ地区の再建についてアメリカのトランプ大統領が発表した構想。ガザ地区住民を域外に移住させた後、ガザ地区を「中東のリビエラ(リゾート地)」にすることでした