京都の寿司屋での出来事
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京都の話をします。
宗教学者の山折哲雄さんとの対談を終えた翌日、ある寿司屋で昼食をとりました。
観光客相手の店ではなく、地元の常連客が通うカウンターだけの小さな店でした。
壁に貼ってある手書きのメニューは、握りとちらしと鯖・鱧・鯵の押し寿司と赤出しのみで、値段は書いてありませんでした。
赤出しは、味噌の風味を損なわないために注文を受けてから味噌を溶き、握りのシャリは、鰹と昆布出しで炊いてから酢飯にしているという拘りでした。
日本茶の茶葉も淹れ方も素晴らしく、最初のうちは、その店に連れて来てくれた食通の友人に感謝しつつ、「おいしいおいしい」と言いながら食べていたのです。
しかし――、途中から味がわからなくなりました。
リュウ・ミリ●作家
1968年生まれ。神奈川県出身。鎌倉市在住。1993年、「魚の祭」で第37回岸田戯曲賞受賞。1997年、「家族シネマ」で第116回芥川賞受賞。2008年10月、朝鮮民主主義人民共和国を訪問。近著に「自殺の国」がある。