韓国最北端の駅・月井里駅へ
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わたしたちを乗せた車は、韓国軍兵士の立つ検問所と、「지뢰(地雷)」と書かれた赤い注意看板がかかった鉄条網の間を縫うようにして上っていきました。
第二トンネルに到着しました。
「わたしは車の中で待っているよ」と小説家の李浩哲さんはフロントガラスに目を定めたまま言いました。
わたしは、DMZトレインの中で、李浩哲さんが「白馬高地が観光地になるなんて……」と嘆息をもらしたことを思い出しました。
李浩哲さん(八十二歳)は、朝鮮人民軍兵士として朝鮮戦争を戦い、連合軍の捕虜となって南側に連行され、元山に帰れなくなってしまった「失郷民」なのです。
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リュウ・ミリ●作家
1968年生まれ。神奈川県出身。福島県南相馬市在住。1993年、「魚の祭」で第37回岸田戯曲賞受賞。1997年、「家族シネマ」で第116回芥川賞受賞。2008年10月、朝鮮民主主義人民共和国を初訪問。近著に小説「JR上野駅公園口」(河出書房新社)がある。