今年こそ、よい風が吹きますように− 柳美里
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いま、ソウル・フラワー・ユニオンのニューアルバム『キャンプ・パンゲア』を聴いています。
一番好きなのは、「死んだあのコ」という曲です。
忍び寄る いつかの香り
励ますように記憶がある
遠ざかる 心の痛み
風を着こなして 歩み出す時だろう
涙は海へ帰る 笑顔は空に滲む
交差点 つむじ風
死んだあのコを思い出している
「あのコの死」によって悲しみに流され、虚無の落とし穴に嵌るのではなく、「風を着こなして、歩み出す」――、過去から未来への転換に痛みを孕んだ風が吹く――、誰かの不在を、不在という形の存在を最も強く感じるのは、わたしの場合、心に翳りや憂いを抱えて、強い風に吹かれながら外を歩くときです。
リュウ・ミリ●作家
1968年生まれ。神奈川県出身。鎌倉市在住。1993年、「魚の祭」で第37回岸田戯曲賞受賞。1997年、「家族シネマ」で第116回芥川賞受賞。2008年10月、朝鮮民主主義人民共和国を訪問。近著に「ファミリー・シークレット」がある。