嶺を越え(祖国訪問記20)
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平壌滞在がしばらく続いたので、また地方に行こうということになり、七宝山と白頭山に行ってきた。前の妙香山を含め山ばかりに行っているようで、在日本朝鮮人登山協会の代表団なのかと思うかもしれないが、そうではない。ただ旅行に行っているだけである。
七宝山は咸鏡北道の東海岸近くにある。比較的近年に観光地として開発されたところで、行くのは初めてだ。平壌から元山へ出て、咸興、金策、と東海岸沿いの幹線道路を北上していくことになる。七宝山を見物した後は、そのまま陸路を北上し白頭山のある両江道まで行こうという計画である。結局8泊9日の長旅となり、この間のことを詳しく報告するのはとても無理なので、ポイント(?)だけを簡単に記したい。
東海岸を北上するコースを通るのは実に25年ぶり。今回、長時間にわたり車から眺めた祖国の山河は、深く心に沈みこむ美しさだった。遠くの山々には木々が生い茂り、近くの田畑には稲やトウモロコシが青く成長する。道の両側には延々と街路樹が続く。目に飛び込んでくる景色の80パーセントが緑色だ。風景をさらに絶妙なものにしているのが、川だ。走っていると大小さまざまな川が現れる。日本のようにコンクリートで固めた川ではない。子どもたちが水遊びをし、ウシが草をはむ。
咸興からしばらくは、左に田園風景が広がるが、洪原から北青へと進むころから様相が変わってくる。街から次の街へと行くために、嶺を越えなければならなくなる。トジル嶺、コサン嶺、パンソン嶺、マン嶺、ソン嶺…と、幹線道路はいくつも嶺を越えていく。嶺を通る道の一番高いところが郡境になっている場合が多い。「山越え、嶺越え、雲を越え…」という歌があったが、まさにそんな感じ。嶺を越えると急に目の前に海が広がるということもある。海には漁船がたくさん出ていた。
端川ら金策へ、摩天嶺という大きな嶺を越えると、いよいよ咸鏡南道から咸鏡北道へと入る。嶺の頂上には道境を示す標識が立っていた。
幹線道路ではずっと、道の修復工事をしていたり橋の建て替えをしていたりと、地元の人たちが道を整備するために懸命に働いていた。そのおかげで、ひじょうに車が通りやすかった。車の量も思っていたより多い。国家の動脈である道路に血がスムーズに流れているということがよくわかった。
陸路、嶺を越えながら進むことにより、街と街の距離感やそこに暮らす人々の姿を、自分自身の身体で感じることができたのが何よりもうれしかった。(k)