揺れる首相発言、わく疑問
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文科省のホームページにアップされている法律案の概要によると、高校無償化の対象となる学校は、国公私立の高等学校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校、専修学校・各種学校等(高等学校に類する課程として文部科学省令で定めるもの)とする、とあります。
2月26日、鳩山首相は「(朝鮮学校除外は)結論が出ている話ではないとしながら、「当然、高校の授業内容というものが検討材料になることは間違いない。その中で結果として国交がない国の教科内容が果たして私どもが確認できるのかどうか」と発言しました。また、川端文部科学大臣は、「高校とみなせるものを対象とするのが大原則。そのためには何をもって判断基準とするのか。またどういう方法で確認するのか。最終的に物事を決めるものさしは、そういうことだと思っている」と発言しました(NHKニュースから)。
もちろん、税金を投入するので、判断基準は必要でしょう。
しかし、2003年の大学受験資格問題の際、国交のない中華民国系の横浜中華学院に関しては財団法人交流協会の認定を使って受験資格を認めた事実ひとつをとっても、「国交なし」を「理由」に挙げながら「除外」の可能性を否定しない上記の発言は、朝鮮学校を外すための口実にしか思えません。
過去、大学受験問題、学校法人への寄付金の損金扱いなど、外国人学校の処遇は一歩一歩前進してきたものの、日本政府は「朝鮮学校排除」という明らかなダブルスタンダードを取ってきました。長くなりますが、受験資格問題から文科省の朝鮮学校排除の過程を振り返ります。
2003年3月。
文部科学省はアメリカ、イギリスの学校評価教育機関(WASC、ACSI、ECIS)の認定を受けた16校のインターナショナルスクール出身者に大学受験資格を認め、アジア系の朝鮮・韓国・中華学校などは排除する方針を発表しました。それまで日本政府は国際バカロレア、仏バカロレア、独アビトゥア合格者には大学受験資格を認めていました。すなわち外国人学校を直接認めるのではなく、その合格者が「本国の大学受験資格」を持っていることに注目し、資格を与えてきたのですが、03年の決定は「特定の外国人学校」に大学受験資格を認める初の判断だったのです。しかし、「アジア系排除」の方針は世論の猛反発を受け、修正を余儀なくされます。
2003年9月。
文部科学省は、①欧米系の学校評価機関の認定を受けた外国人学校卒業生(インターナショナルスクール)、②外国の正規の課程と同等と位置づけられていることが「公的に確認できる」外国人学校卒業生(ブラジル学校、韓国・中華学校など)③大学の個別審査によって高等学校卒業者と同等以上の学力があると認められる者(朝鮮学校)に対して受験資格を与えると発表しました。
つまり、文科省は、その人に大学を受験する資格があるかの判断基準として、①欧米の学校評価機関、②本国認可―という判断基準を設ける一方、大学受験者の大半を占める朝鮮学校は外国の正規の課程と同等かどうかを「公的に確認できない」として、「学校として」受験資格を認める道を閉ざしたのです。国交のない中華民国(台湾)については財団法人交流協会を通じて認める形をとりました。
以上は大学受験資格問題ですが、寄付金問題においても「二重基準」を設けました。
2003年3月31日、財務省は、「初等教育または中等教育を外国語によって施すことを目的」とする各種学校を設置する学校法人を「特定公益増進法人」に加え、その学校法人への寄付が損金扱いになるよう、省令を改正しました。省令の文面だけ見れば朝鮮学校も十分対象となりそうです。しかし、認められる「学校の基準」は文部科学大臣が財務大臣と協議して決めるとされました、そこで文科省は、認められる外国人学校の対象を①「外交」「公用」「家族滞在」などの在留資格を持つ子どもに教育を施すことを目的とし、②かつ欧米系の学校評価機関の認定を受けた各種学校に制限したのです。結果、一部のインターナショナルスクールだけが認められ、朝鮮学校、中華学校は「特定公益増進法人」の対象から外されてしまいました。
長々と書きましたが、日本政府や文部科学省は朝鮮学校外しのために、一生懸命に口実を設けてきたわけです。
2003年の受験資格問題の際、文科省が記者会見で発表した外国人学校のリストの中にブラジル学校が1校もなかったことにアゼンとした記憶がありますが、文科省は今もって外国人学校をしっかり調査もしていません。今回の高校無償化の件では、「朝鮮学校排除」ばかりがクローズアップされていますが、外国人学校のなかには、中国のように海外にある同胞の学校を認めるシステムを持たない国もあれば、本国認可がそぐわないインターナショナルスクールもあり、その姿は多様です。
一方、外国人学校の現場にしっかり向き合った文部官僚もいました。2003年6月19日に池坊保子文部科学政務官(当時)は、東京・十条の東京朝鮮中高級学校を訪問し、授業を視察したうえで、「教科書も文部科学省の検定をパスしたものではないが、きちんとしたもので教えている」という言葉を残しています。
「すべての人にとって適正かつ最善な教育が保障されるよう学校教育環境を整備し、教育格差を是正する」とする民主党のマニフェスト。これに適った公正な判断を望みます。(瑛)