祖国と母国とフットボール
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本誌で韓国サッカーのコラムを担当している慎武宏さんが「祖国と母国とフットボール」という本を送ってくれました。ページを繰ると本書の登場人物19人のプロフィールが載っていますが、朝鮮解放後、異郷に追いやられた悲しみや、数々の差別から来る貧しさの中でも、축구(チュック:蹴球)に在日朝鮮人が沸き、集い、この地で生きる望みをかけた歴史を振り返ることができます。
「朝鮮学校」「在日朝鮮蹴球団」というフィールドで数多くの名選手が育ち、朝鮮の国家代表をも輩出した歴史はコリアン社会ではよく知られていますが、今や12人の朝高出身選手が日本のJリーグで活躍する時代になりました。しかし、ここまでの道のりは、国籍や出自から日本のサッカー界から締め出され、その悔しさをバネに道なき道を切り開いてきた歴史でもありました。
本書に登場するどの在日サッカーマンも、歴史の大きな波の中に自分が立っていることを自覚しています。丹念なインタビューを読み進めながら、選手たちが新しいフィールドを前に不安に押し潰されそうになったこと、そして、道なき道を切り開く決心を固める様子が伝わってきます。その姿は本当にかっこよく、潔い。
南アフリカワールドカップでの活躍が期待される朝鮮代表の鄭大世や安英学、朝高初のJリーガー・申在範も登場します。申さんは同じ東京朝鮮高級学校で3年間を過ごした同級生でもあるせいか、彼がJに挑戦した当時にタイムスリップするかのように、その発言に引き込まれました。日本代表になった李忠成さんの苦悩も想像以上のものでした。
今回の高校無償化で朝鮮高校は排除されたものの、朝鮮学校でボールを蹴ったサッカーマンたちは誰もなしえなかった挑戦をしている。そして、慎さんも朝鮮学校出身のサッカーマンのの軌跡を「通史」として初めてまとめたパイオニアです。ぜひ読んで見てください。(瑛)