一枚の就学案内
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数日前、居を構える東京都○○区の教育委員会から送られてきた就学案内を読み、寒々しい気持ちに包まれた。
「○○区には、区立小学校が59校、区立中学校が28校あります。外国籍の方は日本の学校に就学する義務はありませんが、入学を希望する場合は、お子さんの外国人登録証明書を持参のうえ、就学の申請をしてください」
案内には、6歳になる長男の就学指定学校が記されていて、「10月末まで区の教育委員会の事務局に行き、手続きをしてください、健康診断を11月に行います」とある。
日本の学校教育は小学校からの9年間が義務教育となっているが、日本政府の立場は、「外国籍の子どもに就学義務はない」というもので、日本の学校に通わせることを保護者が望んだ場合、無償で受け入れるとしている。これは、あくまでも「望んだ場合」であって、権利ではなく、アクセスできる教育も日本の学校だけ、という狭いものだ。行政によっては、外国籍の保護者に就学案内を送る際、日本学校以外にも外国人学校のリストを載せる所もあるが、私の住む○○区の場合はそのような配慮もなかった。
日本政府は、外国籍の子どもたちの教育については、公立学校か外国人学校という希望に応じた選択肢が与えられているといい、国連の場でも現行の制度は「差別ではない」と言い切るが、外国人学校に通う選択は自由な選択になっていないことが、この案内を見てよくわかった。
192ヵ国と世界で一番多くの国が批准している国連の「子どもの権利条約」には、「初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする」(28条a)とあり、教育を受ける権利は国民だけではなく、「すべての者」に与えるべきだとしている。また、1992年に国連で決議されたマイノリティの権利宣言には、「国家は…マイノリティに属する者が自らの母(国)語を学び、母(国)語で教育を受ける十分な機会を得られるよう、適切な措置をとる」(第4条3項)とある。
日本国憲法はどうか。憲法26条は「すべて国民は…その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。2、すべて国民は、…その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育をこれを無償とする」とあり、教育基本法4条1項は、「国民は、その保護する子女に、9年の普通教育を受けさせる義務を負う」と規定する。教育を受ける権利主体は「日本国民」に限ったものとされているのだ。
つまり、日本国憲法が規定する「国民」と国連の人権関連諸条約が要請する「すべての者」の間には乖離がある。世界は国民だけではなく、「すべての子ども」に「教育を受ける権利」を保障しなさい、子どもがアクセスできる教育の権利は日本の義務教育だけではなく、母語を学べる普通教育の場も含まれる、と言っている。
日本の公立学校に行きたければ申請しなさい、望まなければ勝手にしなさい―。就学案内の一字一句はひどく無責任な気がした。外国籍の子どもの教育を権利として認めない日本の教育制度。これを忠実に実行する行政。無償化問題にも通じる根の深い問題だ。(瑛)
就学案内
私の住む大阪市H区でも、長女の案内には外国人学校(ウリハッキョだけでしたが)の案内が無かったので、区役所に出向き、この区域のコリアンには朝鮮学校があることをなぜ知らせないのかと抗議したところ、次の年からウリハッキョも案内に入っていました。
全国でウリハッキョも案内に掲載されるように提案すべきだと思います。