教育に対する不当な介入 日本の学校の教科書について
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先週のブログで、「朝鮮学校は今、激しく弾圧されている」と書きましたが、
今日は日本の学校教育の現場で起こっていること、とくに学校で使われる教科書のことについて少し考えてみたいと思います。
国や地方自治体は今、朝鮮学校で行われている教育の内容に対し、不当に介入しようとしていることはこの前のべましたが、
日本の教育現場でも今、同様の事態が起こっているということを中心に書きたいと思います。
日本の小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校においては、
文科省の検定を受けた、もしくは文科省が著作名義を有する教科用図書を使用することが定められています。
一方で、大学などの高等教育や、各種学校(朝鮮学校は各種学校)などにおいては、教科書の使用に関する法的な規定はありません。
教科用図書を授業で使用することが定められている学校においては、
教科書検定制度の下で各教科・科目ごとに1種類ずつの教科書を選定して採択することになっています。
義務教育においては教科書採択は4年ごとに実施され、一度採択された教科書は4年間同じ種類のものを使用することになります。
採択は原則として、市・郡単位で設定された採択区域単位で実施されます。
今年は実は、中学校の教科書採択の年でした。
「つくる会」のことは皆さんご存知だと思います。
「歴史わい曲」「日本国憲法を敵視している」として問題となった教科書をつくり、普及するための活動を進めてきた団体です。
「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」は2006年に「仲間割れ」した後、
「つくる会」は自由社から、そして分裂して出来た日本教育再生機構=「教科書改善の会」は育鵬社(扶桑社の子会社)から教科書を発行するようになりました。
両者とも、他社の教科書の「反戦平和や護憲、核廃絶、アイヌや在日外国人への差別撤廃、環境保護」などの記述を「有害添加物=毒」だと決め付けるなど、従来の教科書内容を強く否定する立場をとっています。
現に「つくる会」のホームページには、従来の他社の教科書が、
「教室で使われてきたトンデモ教科書」という風に紹介されています。
育鵬社・自由社版の教科書は今まで、市民の抵抗などで低い採用率に抑えられていましたが、
今年は育鵬社の教科書(歴史・公民ともに)の需要数が大幅に増えたそうです。
育鵬社・自由社版の教科書(歴史・公民)を教育現場に広げようとしているメンバーの中には、
自民党の政治家らも含まれています。
自民党は過去、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会(自民党「教科書議連」)」を結成し、「つくる会」と綿密に連携し、活動をバックアップしてきた経緯があります。
(※「慰安婦」問題で旧日本軍と日本政府の関与を認めた「河野談話」(1993)について、「確たる証拠もなく『強制性』を先方に求められるままに認めた」と非難し、河野官房長官(当時)を会に呼びつけ、談話の撤回を迫ったこともあります。)
各地で育鵬社・自由社版教科書を採択させるための条件作りとして、自民党の議員らが指令を出して地方議員を動かすといった事例もあります。
学校で実際に教科書を使って教える教員たちの意見を排除するよう、教育委員会に働きかけるということも起きています。
また教科書採択を促すだけではなく、一旦採択された地域に対し、教科書を「忠実に」教えること、教科書の間違いを指摘してはいけないことが、教育委員会によって教員に強制されているのだというのです(現在一部の地域で使われている扶桑社・自由社の教科書とも多くの間違いが指摘されているにも関わらず、です)。
このような「圧力」をかけることは、教育への不当な政治的介入であって、2006年に「改正」された教育基本法にも違反するものだと指摘されています。
これは、朝鮮学校の教育内容を問題視して弾圧するのと同じような構図のもと起こっている事件だと思います。
育鵬社・自由社版の教科書には、具体的にどのような内容が記述されているのでしょうか。
日本は戦後、武力を放棄し、平和主義に基づいて世界の人々と信頼関係を築くことを憲法で宣言しました。
しかし今、その憲法改悪に向けた動きがさまざまな方面で進んでいます。
育鵬社・自由社版教科書に込められた内容も、そのような流れをさらに推し進めるための役割を果たすものとなってしまっているのです。
育鵬社・自由社版の教科書に共通するのが、自衛隊は実質上の「軍隊」であると強調する点です。
また日本国憲法は兵役の義務を否定しているにも関わらず、過去の明治憲法や他国の憲法を例にあげて、あたかも兵役が国民の当然の義務であるかのように述べます。
一方で、世界では徴兵制のない国も多いことや、良心的兵役拒否が多くの国で認められていることにはふれていません。
育鵬社も自由社も、狙いは憲法を「改正」して、戦争をする国の担い手に子どもたちを育てることなのです。
また、アジア太平洋戦争の美化など、誤った歴史観を押し付ける向きも感じ取れます。
各社それぞれ「大東亜戦争(太平洋戦争)」(自由社)、「太平洋戦争(大東亜戦争)」という項目を立て、
育鵬社では「戦争初期のわが国の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への希望をあたえました」と書き、
自由社でも同様の文章に加え、「アジアの人々をふるい立たせた日本の行動」「日本を解放軍として迎えたインドネシアの人々」と題するコラムまで載せています。
沖縄戦の「集団自決」に関しても日本軍の関与を認めません。
もちろん、両社とも韓国併合については正当化する記述を行っています。
さらに、今回の福島原発事故があったにも関わらず、相変わらず原発を礼賛し、危険性についてはほとんどふれない記述にとどまっています。
長くなってしまいましたが、最近NHKで「坂の上の雲」が放送されていることとか、
「武器輸出緩和へ新基準」や「日本が次世代戦闘機にF35を選定」とかいうニュースを目にしながら、
きな臭さを感じています。(里)