「朝鮮」表示者の苦悩
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昨日のブログで(K)さんが2月28日の不当捜査について書いていたが、朝鮮高校への無償化排除をはじめ、在日朝鮮人をめぐる状況は好転の兆しは見えず、その生きがたさは募るばかりだ。
最新のイオ3月号で、「朝鮮」表示者への迫害をテーマに原稿を書いたのは、在日朝鮮人の中でも、とくに外国人登録証明書の国籍欄が「朝鮮」と表示されている人々の苦悩を知って欲しいという思いからだった。近年、「朝鮮」表示ということで、入居を断られたり、就職差別を受けたり、果ては会社で昇進できなかった知人がいる。「朝鮮」表示を問題にされて、銀行の融資を受けられない、就職が難しい、商売をするうえで偏見に苦しむ、という経験をしたのち、生活のために「韓国籍」や日本籍に変える同胞も少なくない。
ここで、それは「朝鮮」表示を選択したのはあなたの責任だ、という突っ込みが入ってきそうだが、在日朝鮮人には戦後、国籍選択権も与えられなかったばかりか、日本政府がもうけた国籍条項によって、国民年金制度や公営住宅から30数年もの間、排除されてきた。
長くなるが、「朝鮮」表示をめぐる歴史について述べようと思う。
在日外国人の管理を目的とした1947年の外国人登録令が施行された当初、外国人登録証明書における朝鮮人の国籍表示は「朝鮮」ひとつだった。しかし1948年に朝鮮半島に分断国家が成立する中、日本政府は韓国政府の要望を受ける形で、50年に「朝鮮」から「韓国」への表示の切り換えを認める一方、「一部朝鮮人で…国籍欄の記載を朝鮮民主主義人民共和国とすることを申請することがあっても、…応じないこと」ととして、その逆は認めなかった。
「韓国籍」の優遇を決定付けたのは65年の韓日条約で、「韓国籍」者だけに「協定永住」を与えるとし、「韓国」を正規の国籍に昇格させた。これが、日本政府が韓国政府と癒着しながら生みだした「分断政策」だ。それも、生活の基盤に関わる事柄を国籍選択の踏み絵のように差しだす、というやり方で。過去、分断国家に関して日本政府は西、東ドイツとも「ドイツ」、中国本土、台湾を問わず「中国」と記載していたことからもその不当性が浮かび上がる。
日本社会では、外国人登録証明書の国籍欄の表示を見て、「朝鮮」は朝鮮民主主義人民共和国国籍、「韓国」は大韓民国国籍と誤解する人が多いが、これは誤りで、外登の国籍欄の表示だけでは、その人の国籍が南北のいずれかを判断できない。
それは、外登法はあくまで日本の法律であって、国籍は国家の側と、個人の側からとで決められる問題だからだ。つまり、誰が国民であるのかを決めるのはその国の主権に属する問題であり、個人の側から見れば国籍を有する権利がある。
たとえば、外登上「韓国」表示の人で、韓国の戸籍や在外国民登録がある場合には、旅券同様、韓国国籍の証明資料となるが、それらがない「韓国」表示の人や「朝鮮」表示の人の国籍は、南北二重国籍となる(南北両政府がその国籍法において、日本国籍を取得した者などを除いて在日朝鮮人はすべて自国の国籍を有すると規定しているため)。
しかし二重国籍といっても、内実はあくまでも分断国籍だ。一方を選択することは他方を捨てることを意味し、両方を選択することは、現在は許されない。例えば日本政府は「韓国籍」のみを国籍として認めているが、共和国国籍に関しては、共和国が「未承認国家」だとして認めていない。このような事情から、在日同胞の中には分断国家の一方を選択したくない、と国籍選択を留保する人たちもいる。「分断国籍」の痛みは根深く、その矛盾は同胞だけに押し付けられてきた。だからこそ、南北統一前に、外登の国籍表示だけでも、「高麗」などに統一しできないか、という声が上がっているのだ。
「朝鮮」表示者への圧力はさらに続く。
来る7月、日本では在日外国人の在留管理に関する法制度が大幅に変わる。日本政府は、今回導入される「みなし再入国許可」で、特別永住者の場合、2年以内の出国、再入国については再入国許可が不要になると、その利便性をアピールしているが、この「みなし再入国許可」でも「朝鮮」表示者が排除されようとしている。「朝鮮」表示の特別永住者は、「正式な旅券がない」ので「みなし再入国」を認めないと説明しているのだ。
数年前に外国籍者への参政権付与が国会で議論された折、「朝鮮」表示者を排除する法案が浮上したことがあるが、「朝鮮」表示者は権利の主体として認識すらされていない、というのが正直な実感だ。
さらに7月には、日本政府が「朝鮮」表示を持つ在日朝鮮人の海外渡航の規制が始まり6年という月日が刻まれる。主義主張、生活実態も異なる「朝鮮」表示者がひとまとめに選別され、排除されることによって、「朝鮮」表示者が抱える不安は年を追うごとに深刻さを増している。
「朝鮮」表示者に人権はないのか。彼らへの迫害が「北朝鮮バッシング」の名の下に正当化されていいのだろうか。「朝鮮」表示者が置かれた状況を自分の身に置き換え、考えてほしいと思う。これは、日本の無国籍者、外国籍者にも連なっていく問題を内包しているのだから。(瑛)
たまたま
たまたま出版会館の前を通りがかったら、あんな事になってて驚きました。
正直、怖かったです…。