茶色の朝
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本の紹介です。
フランスの心理学者で人権運動家であるフランク・パヴロフによる著書、「茶色の朝」。
とある国、国家権力の下、人びとは「茶色」的なものを強いられ、「茶色」的でない人・物・コトは抑圧され、奪われ、排除されていく。茶色の猫、茶色の新聞、茶色の本、茶色の言葉、茶色の歌、茶色の法律、茶色の思想…。そしていつしか「ふつうの人びと」は安楽を求めて抵抗をやめた。全体主義に身を委ね、すべてが茶色に染まっていく。最後には「朝」までもが茶色に染められ、破滅を迎えるという恐ろしい物語だ。
なぜ茶色なのかという話をすると、ヒトラー率いるナチス党が初期に茶色のシャツを制服として着用していたので、茶シャツ隊はナチスの別名だったことから、フランスで茶色はナチスを象徴する色であるからだ。それが転じて今日ではもっと広く、ナチズム、ファシズム、全体主義を連想する色となっている。
本書は音もなく忍びよる全体主義の恐怖を描いた寓話だが、その筆致はただ坦々と物語を運んでいき、全体主義が静かに広がり、完成していく様を見事に描いている。
さて本書を読むと、私たちの住むこの国の「茶色」的なモノ、「茶色」に染めていく出来事、なんと多いことか。そう思わずにはいられないだろう。
本書には高橋哲哉さんからのメッセージが寄せられていて、その中で、日本にも排外主義、差別主義、国家主義への強い傾向が確実に存在していると指摘し、それが誰の問題であるかを問いかけている。
それは、排外主義や差別主義や国家主義を先頭に立って推しすすめている人たちでも、それらに共感し、それらを支持している人たちではありません。・・・むしろ、政治家の暴言や在日朝鮮人の人びとへの嫌がらせの事実を知れば、「ちょっとひどいな」と眉をひそめ、国旗・国歌であれなんであれ、権力的強制にたいしては・・・疑問を感じ、『戦争をする国』になっていくことにたいしては、一抹の不安を覚えているような、そんな人たち。・・・現代社会における「ふつうの人びと」こそが、ここでいう「私たち」なのです。(本書より)
そして「茶色の朝」を迎えたくなければ、「思考停止」をやめること、考えつづけることだと、それは誰にでも可能であり、発言し行動することは、考えつづけることによってのみ可能だと説く。
物語の中の「俺」は、「茶色に守られた安心、それも悪くない」と被支配を享受し、最後には「抵抗すべきだったんだ」と後悔する。
茶色の法律を振りかざして、茶色の教育を強要し、朝鮮学校の自決権を根こそぎ奪おうとする現状を前に、黙ってなどいられない。(淑)
茶シャツ隊
>ナチス党が初期に茶色のシャツを制服として着用していた
いわゆる突撃隊(SA)ですね。ナチの準軍事組織で、政敵との暴力闘争で知られかつ恐れられたならず者集団です。黒服で有名な親衛隊(SS)とは対立関係にありました。
(淑)さん、興味がおありでしたら「世界史上初のファシスト」についてお調べになられますか? 内田樹という人が書いた「私家版・ユダヤ文化論」(文春新書)に詳しく述べられています。この本、いろんな知的刺激に満ちてますのでオススメですよ。
Unknown
全体主義と聞いて世界中の人が連想する国…北朝鮮
全体主義と聞いて在日朝鮮人が連想する国…日本
面白いですね。
コメントありがとうございます
(オタトンポ)さん
本を紹介してくれてありがとうございます。
本、検索したらサルトルやレヴィナスの思想が収められてるみたいですね。今ある本を読み終えたら手にとってみますね。
(ドンドルマ)
それは少し短絡すぎるのでは。世界中の人が連想するとは言えませんし、在日朝鮮人においても同様です。色んな考えを持った人がいると思います。
無題
以前このブログで『茶色の朝』のレビューが書かれていたはずだと思い出し、やっとこ見つけました。何かというと、たまたまこういうブログ記事を見つけたので――。
覚え書:「茶色の朝」は、すでに来ています。/Essais d’herméneutique
http://d.hatena.ne.jp/ujikenorio/20150125/p1
(淑)さんの本エントリは3年前のものですね。そのたった3年前に比しても、日本は「茶色」の色彩がいっそう濃くなりました。
この前の安倍氏の施政方針演説、喜色満面で「戦後以来の大改革」をぶち上げてるのが心底気色悪かったです(どう見てもこれを叫ぶ正当性を得るために、彼は2人の生贄を「イスラム国」に売り渡したとしか思えない)。
それが何を意味するのか「なんとなく分かってる」にもかかわらず、みんな底無しの没思考にあえてはまりこんでいる現状も気色悪い。いつかそのツケを自分たち自身が払わねばならないというのに。
どうすればみな目が覚めるのか、あらゆる意味での「ガイアツ」に頼るしか術はないのか――頭の中はモヤモヤするばかりです。
で、両ブログを通じて一つだけ明るい?話。
『茶色の朝』の装画、担当してたのはヴィンセント・ギャロだったんですね。映画『バッファロー’66』で初めて存在を知ったんですが、まったく多芸多才な人です。うらやましいなあ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴィンセント・ギャロ