記者という仕事について
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昨日の(K)さんのブログに編集者に必要な能力についてお話があったが、最近、取材先で20代の頃からお世話になっているY先輩に「○○○さん、記事だけ書いてていいんですか?」と聞かれドキッとした。それはその言葉が、「記事を書くことで自己満足してるんじゃないの?」「現実を変えることに貢献しているの?」という問いに思えたからだ…。
「イオ」は、1996年の創刊以来、タイトルの上に「在日同胞をネットワークする」というサブタイトルをつけているが、「高校無償化からの朝鮮高校排除」という事実ひとつとっても、在日朝鮮人をめぐる状況は、よくなるばかりか、先の見えない不安を抱える人が増えてしまった。その大きな原因は日本の政治、社会状況にある。朝鮮半島をめぐる国際情勢も関係している。けれど、読者の皆さんには日々の生活があり、毎日毎日、政治のことばかり考えて生きていけるものでもないし、めげずに日々を乗り切る生活力も必要だと思う。
とくに「イオ」はおもに定期購読いただく月刊誌なので、読者の生活実感に沿った、地に足ついた「旬な企画」を打っていかないと、ただの押し売りになってしまう。在日同胞、と一言でいってもその暮らしは百人いれば百通りあるだろう。広く共有できるテーマを選ぶことは何より重要だ。
また、企画を立てて、取材して、記事を書いて、写真を選んで、と編集する過程で、伝えたいメッセージを自分のことばで搾り出す力も記者(編集者)に求められる能力であるし、それぞれの記事を読者がどう受け止めたのかを的確にキャッチして、次につなげる力も大事な仕事ではなかろうか。普段から、「イオ」をわが子のように叱り、時に尻を叩いてくれるよき友人を得ることも、記者生活を送っていくうえでの「エンジン」になっていくと思う。
職業柄か、気になる雑誌に目を通す。例えば、記事を読んだあと、胸にさざ波がうったり、モヤモヤしたものがすっきりしたり、ある人の言葉に「そうそう、私もそう思っていたの!」と共感することがたまにある。こんな気持ちを「イオ」で、たった一つの記事、たった一つのフレーズを通じてでも感じてもらえれば、編集者冥利につきる。一方で、「こんなことは自分でも書ける」「こんなキレイごとばかり書いて、この記者は何をわかっているのか」という反響が耳に届くこともある。
インターネットが普及したこの時代、「取材して書く」ことが記者の特権でなくなった。独自の取材網と視点に裏打ちされた読みごたえのあるメディア、常に読者と双方向の関係を築くメディアにバージョンアップしなければ、そのメディアはすたれていくしかない。
話はもどり。。。Y先輩と再会したのは久しぶりで、それはモンダンヨンピルコンサートが大盛況に終わった日の夜のことだった。
今から15年ほど前、先輩は都内の某朝鮮初級学校の保護者で、地域社会に朝鮮学校を根付かせるため、色んなことに挑戦されていた。なかでもハッキョを地域社会に公開したバザーを取材した日の驚きは忘れられない。校門前に長蛇の列ができていて、スタートと同時に人がハッキョになだれ込み、小さな運動場が地元の人たちで一杯に埋まっていたのだ。今でこそバザーはどの学校でも行っているが、一般市民を対象にしたものは関東圏では初の試みだったと思う。学校を大胆に開放した結果、交流は進み、近くの日本の学校の保護者と焼芋大会をしたり、「三年峠」の演劇を一緒に鑑賞したり、行政に補助金アップの要望に行ったり、と朝鮮学校は多くの友人に囲まれるようになった。
このように、地に足ついた活動を続けている人だけに、記者に向ける目は厳しかったが、常にその言葉は的を射ていた。そんな先輩が、珍しく7月号の「高校無償化」特集をほめてくれたことが嬉しかったが、次に飛び出した言葉にまた背筋が伸びた。「民族教育問題をテーマに、『イオ』がシンポジウムでもしなさいよ!」
…創刊から10年が経ち、在日コリアン同士を繋ぐだけではなく、在日コリアンと日本人を繋ぐ、在日コリアンと他の在日外国人を繋ぐ、というように、「イオ(이어=繋ぐ、という意味の朝鮮語)」の意味がどんどん広がりをもつようになってきました。朝鮮半島の南北の和解が進むなか、もちろん、在日コリアンと南北朝鮮を繋ぐ役割も「イオ」が果たさなければなりません。「イオ」の使命がどんどん大きくなっていくことを感じます。
今後、さまざまな「繋ぐ」を実現させるために貢献できる雑誌にならなければいけないと思っています。その「繋ぐ」は、たんなる交流ではなく、日本社会の現状に対する危機意識を共有し、社会変革に積極的にコミットするための「繋ぐ」となるようにしたい。「イオ」が現状を1ミリでも動かすことができないのなら、出版する意味はないと思っています。…(「イオ」1996年7月号から抜粋)
創刊10周年を迎えた「イオ」に編集長が綴った言葉を思い出した。
まだまだ、できること、するべきことはたくさん!
まずは、来月号の企画書を書き上げなければ!(瑛)