「朝鮮人強制連行の記録」
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私は今、一冊の本に圧倒されている。
朴慶植氏が1965年に著した「朝鮮人強制連行の記録」(未来社)に。
47年前に出されたこの本は、朝鮮人強制連行問題を朝鮮民衆の視点から網羅的に整理したもので、朝鮮人強制連行のバイブルとも言えるものだ。
「現在、朝鮮の南からも北からも、解放以前、日本に連行された同胞の家庭や親戚の安否をたずねる手紙がひっきりなしにきているが、そのなかには行方不明のものが多い。それもその筈で、日本の各地の炭坑や、土木工事場あたりをまわってみると、至るところに朝鮮人の遺骨が放置されており、また南方その他の戦線に動員されて死亡していたものが多いからである。しかしこれらの犠牲者の問題は時のたつとともに忘れられ、消されようとしている…」
朴氏は膨大な日本政府、企業の資料を洗い出し、日本各地を歩きながら集めた証言と資料を通じて、強制連行の全貌を解明している。この本を読むと、朝鮮人強制連行がどのように日本国内で立案され、進められていったのか。朝鮮、日本国内で600万人を越えた強制連行犠牲者がどのように集められたのか。そして、日本帝国主義、軍国主義の目的遂行のため、皇国臣民化の教育を強いられ、労働現場で奴隷のように酷使され、果ては命を落とした犠牲者の叫び声が聞こえてくるようだ。まさに、現代版奴隷制度が手にとるように浮かび上がってくる。加害者、被害者双方の証言、政府の一級資料に基づいた資料による叙述は説得力に富んでいる。
600万人―――。現在明らかになっている朝鮮人強制連行者数は真相調査が進めばもっと増えるだろう。
先日も野田首相が日本軍従軍慰安婦(性奴隷)問題について「強制連行の事実は確認できなかった」と発言したが、強制連行の事実は日本政府が徹底して隠してきた。戦後、日本政府がこの国家的犯罪を隠すために意図的に資料を焼却したからだ。朴氏をはじめ各地の朝鮮人強制連行真相調査団の努力によってこの問題は国連にも届き、日本政府が真相究明、謝罪、補償など、犠牲者の名誉回復を果たす義務があるとの指摘もなされたが、先人の努力がなければ「朝鮮人強制連行問題」は、それこそ朴氏が述べたように消され、闇に葬られていた。
強制連行された多くの人々が教育を受けられず、その苦悩が長い間、活字にならなかったことをみても、植民地支配の根深さを痛感する。上記の本には日立鉱山、常盤炭鉱、九州炭坑、宇部炭坑などで強制労働を強いられた被害者の証言もまとめられている。
今回の特集でも2人の証言を載せるが、隠された資料とともに、被害者や遺族の証言をひとつでも多く探し当てる課題は今も残っている。今後、朝鮮半島での強制連行調査が進み、日本の研究成果と共有されれば、朝鮮人強制連行の実態はより立体的に浮かび上がってくるだろう。
政治家の暴言は今後も続くだろう。強制連行の事実を解明してきた先達の強い意志と残された膨大な資料を前に、強制連行の今日的課題が何かを考えている。(瑛)