ある差別主義者の都知事辞任劇によせて
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先日、石原慎太郎氏が東京都知事の職を辞した。
「石原新党」を結成し国政に復帰、「第3極」の結集を目指すのだという。
辞意表明会見は唐突で、あまりにもあっけのないものだった。
私は東京都民ではないが、都知事として最悪の人物が退場したことを素直に喜ぶべきなのだろうか。選挙不出馬という前言を撤回して「後出しじゃんけん」のように立候補し、知事に再選された思えば、今度は任期途中で「ほかにやりたいことができたから、ぼくやーめた」と無責任に投げ出す。この間の執政を真摯に総括する気もないようだ。彼にとって、しょせん都政などどうでもいいことだったのだろう。
それにしても不思議なのは、どうして彼のわがままかつご都合主義的なふるまいが通用してきたのか、ということだ。
マスメディアは、政治家としてあるまじき(もちろん人間としても許されない)暴言を性懲りもなく吐く彼に対してはずいぶん甘いのではないか。約13年半にわたる石原都政を厳しく検証し、彼の差別発言や傍若無人なふるまいを徹底して追及する気もないらしい(今からやるのであれば大歓迎だが)。石原都政の功罪を取り扱った内容もあるにはあったが、ずいぶんあっさりとしたものだったように思う。それよりも、「石原新党」結成や「日本維新の会」との連携など政局の話題のほうに関心が行くのだろう。
そして、テレビ画面の向こうでは、「はっきりものを言う、何かやってくれそう。国政で頑張ってもらいたい」といった、いつかどこかで聞いたことのあるような声が流れる。そんな現状が無性に腹立たしい。
石原氏がもくろむ「第3極」など悪い冗談にしか聞こえない。ごめんこうむる(個人的には、石原氏が国政の場で影響力を持てるとは思わないが)。
「三国人」発言から「知的障害者に人格はあるのかね」発言、「中国人の犯罪DNA」発言にいたるまで、彼の外国人に対する偏見や差別をあおる発言、弱者蔑視、他民族蔑視の暴言は枚挙に暇がない。東日本大震災に際しては「津波は天罰」発言もあった。朝鮮学校の無償化に一貫して反対し、補助金支給を打ち切ったのも石原氏だ。
くわしくは、
http://www.geocities.jp/social792/isihara/isihara_kansi.html
http://matome.naver.jp/odai/2129161684892120001
などのサイトでまとめられている。
このようなむちゃくちゃな発言に共感し、石原氏を支持する人間なんているのか。いるのだ。でないと、石原都政13年半は説明できない。
筋金入りの差別主義者、排外主義者の極右政治家・石原慎太郎は確かににひどい。しかし一方で思う。ことは彼個人にとどまる問題ではないのだ。積極的な投票、あるいは無関心、黙認を通じて彼を都知事に4期連続で選び続け、絶大な権力をふるうことを許してきたのは都民有権者マジョリティなのだから。特定の民族を敵視させたり,偏見や嫌悪の感情を高めさせたりしかねない言論が、公的な場で首都の長の口から語られる状況を許してきたもの―私はそちらのほうが怖い。そしてそれは、日本社会を覆いつつある弱者切り捨て、マイノリティ蔑視、排外主義的な風潮と地続きのような気がしてならない。(相)