補助金打ち切りは核実験に対する制裁という世にも恐ろしい言い分
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最近のエントリでは重たくて暗い話題が続いていたので、今回は若い頃のバレンタインデーの甘酸っぱい思い出話(?)でも書こうと思ったが、現実はそうもいかないらしい。
12日の朝鮮民主主義人民共和国の核実験を受けて、神奈川県の黒岩祐治知事は13日、県の2013年度当初予算案に県内の朝鮮学校5校に対する計約6300万円の補助金を計上しないことを決めた。
補助金の打ち切り―。こうなるだろうことは予想していた。いや、ほぼ間違いなくそうなるというある種の確信があった(こんな確信など持ちたくなかったが)。
知事は打ち切りの理由を、国際社会が強く反対する中で核実験が強行されたことで、「これ以上の継続は県民の理解が得られないと判断した」と説明した。またしても繰り返される「県民の理解(県民の部分は国民でも世論でも何でもいい)」というマジックワード(「県民の理解」の中の県民には朝鮮学校の生徒や保護者、教職員、関係者などは含まれないようだ)。数日前には補助金の支給を継続すると発表していたはずだが、手の平を返すとはこのこと。「○○の理解」などといった曖昧模糊としたものを持ち出して、自治体の長がこのような無理筋の主張をごり押しで通す行為が許されていいのだろうか。
会見で黒岩知事は、このたびの補助金支給打ち切りの措置が朝鮮の核実験に対する制裁であるということを認めている。補助金打ち切りという措置を通じて「強い憤りのメッセージを伝える」のだと。そして、「朝鮮学校に通う子どもたちが、なぜ補助金が支給されなくなったのかを理解することも教育の一環だ」とものべた。朝鮮学校が核実験と何の関係もないことは言うまでもない。それとも、朝鮮学校が朝鮮の核開発に組織的かつ積極的に関わったという証拠でもあるのか。朝鮮と関係が深い(=今回の核実験に責任がある、では断じてない)という一点をもって、朝鮮学校で学ぶ子どもたちを人質にとるという行為を恥ずかしいと思わないのであれば問題だ。
今回の支給打ち切り措置を支持する世論(黙認、無関心による消極的な支持も含めて)が社会にあることは事実だろう、とは思う。だからといって、世間の「空気を読む」とばかりに、一旦決まった施策を正当な理由なく変更するなどあっていいはずがない。自分にとっては、このような不正義がまかり通る「空気」のほうが「北朝鮮の核」よりはるかに怖い。
件の黒岩知事の記者会見の様子は以下のurlで見られる。
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/chiji/p304418.html#player1
新聞報道には言及されなかった発言もあって、知事本人の考え方を知る上で参考になった。当ブログの読者のみなさんにも視聴をすすめたい。言っていることがいかに無茶苦茶か、よくわかる。
会見の中で知事は、県の補助金が朝鮮学校の教育内容(具体的には拉致問題)に介入するためのツールであると明確にのべている。したがってこれまでの補助金支給も、必ずしも子どもの学習権やマイノリティの教育保障といった理念から出たものではないということになる。黒岩知事にとって朝鮮学校に対する補助金とは、制裁や懲罰、介入といったその時どきの目的に応じて出したり出さなかったりできる類のものなのだ。今回の補助金打ち切りの措置も知事のロジックからすれば当然の判断だったのかもしれない(到底納得できるものではないが)。
と、ここまで書いて暗澹たる気持ちになってきた。悲観的なことを言うようだが、このような流れはこれからも加速するだろうと個人的には思っている。そして、この「国民の理解」とやらが、現在行われている大阪の補助金裁判と、これから始まる大阪、愛知での「高校無償化」裁判の場に持ち込まれないことを願うばかりだ。
核実験口実に差別は筋違い―神奈川朝鮮学園理事長の抗議声明
県の国際交流事業に貢献するなど、県との信頼を積みあげるために努力してきた神奈川の朝鮮学校保護者、教員らが今回の通知で受けた衝撃は大きく、補助金の継続支給を求める要請が続いている。14日、神奈川朝鮮学園の禹載星理事長が発表した抗議声明は以下の通り。
神奈川県の黒岩裕治知事は2月13日、「北朝鮮による3回目の核実験を受け、県内の朝鮮学校5校に交付してきた県独自の補助金を、平成25年度当初予算案に計上しない」と突如発表し、県の学事振興課が神奈川朝鮮学園に通知した。
神奈川県は2月5日に神奈川朝鮮学園に対する平成25年度補助金を計上する方針を示していた。これは県と神奈川朝鮮学園との長年にわたる努力の結果、築かれた信頼関係と多くの県民の理解と支持のもとに示された方針として、学園はもちろん父母ならびに関係各位も大いに歓迎していた。
にもかかわらず、黒岩知事が「核実験」を口実に突如として「朝鮮学校への補助金を計上しない」との決定をくだしたことについて、驚きと憤りを禁じえない。
今回の「核実験」と神奈川朝鮮学園が何の関係もないということは、あまりにも明白であり、それを口実に本学園を差別的に扱うことはまったくの筋違いである。
日本も批准している子どもの権利条約と国際人権規約が規定しているように、すべての子どもたちにはどの国に住もうとも、学校を選択する権利や民族的アイデンティティを保持しながら教育を受ける権利を有している。黒岩知事自身も朝・日両国の政治関係と朝鮮学校を切り離し、補助金支給を継続してきた。
今回の決定は、国際規約に反するばかりか知事の自己否定につながる矛盾に満ちたものである。
神奈川朝鮮学園は、学校法人として今日まで各種法令に基づき、行政に運営状況を報告し、県の指導を誠実に受けてきた。近年、県と学園側との理解を深めるため、緊密な連携のなかで努力を重ねてきたことは、神奈川県当局がもっともよく承知していることである。また、同学園の父母たちは、神奈川県民としての納税義務を誠実に果たしている。
神奈川朝鮮学園は創立以来60年間、「アース・フェスタかながわ」、「横浜港祭り」、「外国籍県民かながわ会議」などにおいて、地域における多文化共生と国際交流に貢献してきた。5千人を越える卒業生たちは、県及びその他の地域で日本社会の発展に大きく寄与している。
国際性豊かな県として、世界でも認められている神奈川県の知事が、今回のような民族差別的な決定をくだしたことは、到底理解することができない。
私は、神奈川朝鮮学園と本学園に子どもたちを通わせている父母をはじめとする県下の全同胞の名において、黒岩県知事に強く抗議し、当初の予定通り、本学園に対する平成25年度補助金を予算案に計上することを強く求める。