黒岩知事は盾になったのか
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神奈川県の黒岩知事が13日、神奈川朝鮮学園に対して30年以上も続けて支給してきた補助金を突如打ち切るという暴挙に出たが、同学園に子どもを通わせている保護者らの怒りはおさまらず、県庁への要請が続いている。
県知事は、「朝鮮学校と北朝鮮は関係ないと、県民に理解してもらう自信がない。盾になり続ける気持ちがうせた」(2月18日、神奈川新聞)と説明したが、国籍、出自にかかわらず、自治体首長には子どもを率先して守る責務がある。核実験と子どもたちはまったく関係ない。黒岩知事は最後まで子どもを守る盾になるべきで、打ち切りを撤回しない限り、子どもたちを再度、社会的な差別にさらすことになる。
補助金打ち切りの通告を受けた神奈川朝鮮中高級学校では18日に緊急集会が開かれ、約200人の保護者、日本市民が集まった。
保護者の李文恵さんは、補助金打ち切りの「理由」に知事が「県民感情」をあげたことについて、「税金を誠実に納めている朝鮮学校の保護者は県民ではないのか。国際人権規約で保障されるべき最低権の人権もこの国では保障されない。日本がどこに向かっているのか。朝鮮学校の認可すらも取り消されそうな危機感を持っている」と語った。
また、沢井功雄弁護士は、「(知事の決定は)憲法14条の平等原則に反している。強く抗議すべきだ」と語ったあと、朝高生たちに目を向けながら、「あなたたちは悪くない。自分の生き方に誇りをもって生きていって」と激励の言葉をおくっていた。
高校無償化からの朝鮮高校排除にも反対してきた、神奈川県教職員組合の園田守委員長は、日本国民として、県民として皆さんにお詫びしたいと述べ、「今まで知事は拉致、ミサイルと朝鮮学校を切り離して考えるといってきたのに、補助金を打ち切ることで、『関係がある』という誤ったメッセージを発信することになり、結果として子どもたちの安全の問題に関わる。知事としてどういう責任を持つのか。絶対に看過できない」と怒りを込めて語った。
集会が終わった後も、保護者のオモニたちが通信社の取材に懸命に応じていた。
白珠妃さんは、「日本の学校で差別を受けた実体験がある。生まれた時から根無し草の私たちは、この学校で子どもたちに自分のルーツを、民族を教えている。私たちの民族を奪わないで」と切々と訴えていた。
黒岩知事は就任当初から、日本人拉致問題を朝鮮高校の授業で扱うよう、教科書の内容に干渉し、記述を変えなければ補助金を出さない、という発言もしていたという。これに対し、朝鮮学園側は年に5回に渡って情報交換会を持つなど、互いの誤解や不信を解くために努力を注いできたし、黒岩知事自身も保護者との面談の席で「拉致問題は子どもたちに何の責任もない」と話してきた。このような経緯があるだけに、保護者や教職員、生徒たちの中には打ち切りの通告に「裏切られた」という落胆の思いが強い。
神奈川県といえば、1975年に民際外交を掲げ、「足元の国際化」を進めてきた国際化の先進県だ。
国際学校、ドイツ学園、中華学校など、外国人学校も多く、神奈川県は朝鮮学校をはじめとする外国人学校への支援も独自に行い、その補助金は兵庫県と並びトップレベルだった。補助金が30年以上支給されてきたのは、外国人と日本人がよりよき神奈川を作るために積み上げてきた信頼関係によるもので、黒岩知事の補助金打ち切りは、この信頼関係を真っ向から否定するものだ。
今まで神奈川県の朝鮮学校や同胞たちは、「外国籍県民かながわ会議」「あーすフェスタ神奈川」「横浜港まつり」など、県の国際化にも寄与してきた。同胞とともに、この事業に関わった県の職員、日本市民、外国人は数多く、今回の決定に胸を痛めている人は多い。
神奈川県は23年前の1990年3月23日、「在日外国人(主として韓国・朝鮮人)にかかわる教育の基本方針」を制定しており、そこで在日朝鮮人の民族教育を支援する姿勢をはっきりとうたっている。
方針は、本県には6万人(1989年6月30日現在)の外国人が県民として生活しており、このうちの約半数が韓国・朝鮮人であるとしたうえで、「この人たちの多くは、1910年の韓国併合後の我が国の植民地政策等をはじめとする歴史的経緯及び第二次世界大戦後の南北に分断された母国の事情や生活基盤の喪失等によって、やむなく日本で働き生活せざるを得なくなった人たちとその子孫である」と指摘。「この人たちの人権は長い間軽視されてきた面があり、現在でも、教育、就労、福祉等において在日韓国・朝鮮人に対する厳しい差別や偏見が根強く残っている状況がある。そのため、児童・生徒が学校や地域社会において、本名が名乗れないという実態もある」としながら、「在日外国人児童・生徒に対しては本名が名乗れる教育環境を作り、民族としての誇りをもち、自立できるよう支援する」とはっきりと言っている。
県の方針は絵に描いた餅なのか。
保護者、日本市民の要請は打ち切りが撤回されるまで続いていく。(瑛)