オモニたち、国連へ
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(瑛)さんも何度か書いているように、朝鮮学校に子を通わせる母親たちによる代表団が今月末からスイス・ジュネーブで始まる国連社会権規約委員会に参加する。
社会権規約は通称「国際人権A規約」とも呼ばれ、正式名称は経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(1966年採択)という。労働・社会保障・生活・教育などの経済的・社会的・文化的権利(社会権)を保障している。締約国政府は権利の完全な実現を漸進的に達成する義務を負う。日本は79年に批准している。
社会権規約委員会は85年に設置され、87年から活動をスタート。18人の独立専門家が年に2回、約3週間にわたって締約国の報告書を審査する。締約国は5年に1度、自国の社会権規約遵守状況について報告する義務がある。
今回は日本政府が09年に提出した報告書の審査が行われる。日本の審査は今回が実質的に2回目。前回は01年8月だった。
昨年5月に委員会とNGOとで報告書の事前審査を行っており、同年7月には委員会が日本政府への事前質問事項を発表。日本政府は今年1月、この質問への回答を送付している。
日本政府報告書の本審査は4月30日だ。
朝鮮学校の保護者をはじめとする総聯代表団は90年代から各種の国連条約審査委員会にNGOの資格で参加、差別是正を求める勧告を引き出すなど活動を行ってきた。参加するか関わったものを挙げると、
第1回子どもの権利委員会(1998年5月)、第1回人種差別撤廃委員会(2001年3月)、第2回社会権規約委員会(同年8月)、第2回子どもの権利委員会(2004年1月)、第3回自由権規約委員会(2008年10月)、第2回人種差別撤廃委員会(2010年2月)、第3回子どもの権利委員会(2010年5月)
となる。そのうち、オモニ代表団は第2回と第3回の子どもの権利委員会に参加している。3回目となる今回のオモニ代表団も朝鮮学校に対する差別的処遇の実態を訴え、この問題に関する委員会の勧告を引き出すため活動する予定だ。
すでに、さまざまなNGOが政府報告書に対するカウンターレポートを送付している。中には「高校無償化・就学支援金」制度からの朝鮮学校除外問題に関して差別是正の働きかけを求める内容も含まれている。
以下、近年の各種委員会を通じて出された懸念や勧告の主な内容を記す。(相)
●第2回社会権規約委員会(01年8月)
<主要な懸念事項>
32.委員会は、マイノリティの子どもにとって、自己の言語による教育の機会および自己の文化に関する教育を公立学校で享受する可能性がきわめて限られていることに懸念を表明する。委員会はまた、朝鮮学校のようなマイノリティの学校が、たとえ国の教育カリキュラムを遵守している場合でも正式に認可されておらず、したがって中央政府の補助金を受けることも大学入学試験の受験資格を与えることもできないことについても、懸念するものである。
<提案および勧告>
60.委員会は、言語的マイノリティに属する生徒が相当数就学している公立学校の正規のカリキュラムに母語(母国語)による教育を導入するよう強く勧告する。委員会はさらに、締約国が、マイノリティの学校およびとくに朝鮮学校が国の教育カリキュラムにしたがっている状況においては当該学校を正式に認可し、それによって当該学校が補助金その他の財政援助を得られるようにすること、および、当該学校の卒業資格を大学入学試験の受験資格として承認することを勧告するものである。
●第2回子どもの権利委員会(04年1月)
24.委員会は、…コリアン、部落およびアイヌの子どもその他のマイノリティ・グループならびに移住労働者の子どもに対する社会的差別が根強く残っていることを懸念する。
25.委員会は、とくに女子、障害のある子ども、アメラジアン、コリアン、部落、アイヌその他のマイノリティ、移住労働者の子どもならびに難民および庇護申請者の子どもに関して社会的差別と闘いかつ基本的サービスへのアクセスを確保するため、締約国が、とりわけ教育・意識啓発キャンペーンを通じて、あらゆる必要な積極的措置をとるよう勧告するものである。
49.委員会は、教育制度を改革し、かつそれをいっそう条約に一致させるために締約国が行っている努力に留意する。しかしながら、委員会は以下の点について懸念するものである。
(d)日本にある外国人学校を卒業して大学進学を希望する者の資格基準が拡大されたとはいえ、依然として高等教育へのアクセスを拒否されている者が存在すること。
(f)マイノリティの子どもたちにとって、自己の言語で教育を受ける機会がきわめて限られていること。
50.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(d)マイノリティ・グループの子どもが自己の文化を享受し、自己の宗教を表明したまま実践し、かつ自己の言語を使用する機会を拡大すること。
●第2回人種差別撤廃委員会(10年2月)
22.委員会は、2言語を話す相談員や7言語で書かれた入学手引など、マイノリティ集団の教育を促進するために締約国が払ってきた努力を、評価をもって留意する。しかし、委員会は、教育制度のなかで人種主義を克服するための具体的なプログラムの実施についての情報が欠けていることに遺憾の意を表明する。さらに、委員会は、子どもの教育に差別的な効果をもたらす行為に懸念を表明する。そのような行為には、以下のようなものが含まれる。
(c)学校の認可、同等の教育課程、上級学校への入学に関する障害
(d)締約国に居住する外国人、韓国・朝鮮出身者の子孫および中国出身者の子孫のための学校が、公的支援、助成金、税の免除に関して差別的な取り扱いを受けていること。
(e)締約国において現在、公立および市立の高校、高等専門学校、高校に匹敵する教育課程を持つさまざまな教育機関を対象とした、高校教育無償化の法改正の提案がなされているところ、そこから朝鮮学校を排除するべきことを提案している何人かの政治化の態度(第2条、第5条)
委員会は、市民でない者に対する差別に関する一般的な性格を有する勧告30(2004年)に照らし、締約国に対し、教育機会の提供において差別がないよう確保すること、ならびに、締約国の領域内に居住する子どもが就学および義務教育の修了にさいして障害に直面することのないよう確保することを勧告する。この点に関して、委員会は、また、締約国が、外国人のための多様な学校制度の調査研究や、国の公立学校制度の枠外に設置された代替的な制度が望ましいかどうかの調査研究を行うよう勧告する。委員会は、締約国に対し、マイノリティ集団が自己の言語を用いた、または自己の言語の指導を受ける充分な機会を提供することを検討すること、および、締約国がユネスコ教育差別禁止条約への加入を検討するよう求める。
●第3回子どもの権利委員会(10年5月)
72.委員会は、中国系、朝鮮系その他の出身の子どもを対象とした学校に対する補助金が不十分であることを懸念する。委員会はまた、このような学校の卒業生が日本の大学の入学試験を受けられない場合があることも懸念する。
73.委員会は、締約国に対し、外国人学校への補助金を増額し、かつ大学入試へのアクセスにおいて差別が行われないことを確保するよう奨励する。締約国は、ユネスコ・教育差別金志条約の批准を検討するよう奨励される。
87.委員会は、締約国に対し、民族的マイノリティに属する子どもへの差別を生活のあらゆる分野で解消し、かつ、条約に基づいて提供されるすべてのサービスおよび援助に対し、このような子どもが平等にアクセスできることを確保するため、あらゆる必要な立法上その他の措置をとるよう促す。