思い出の台詞
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自宅で本棚の整理をしていると一冊の本が目に留まりました。題名は《먼길(遠い道)》。朝鮮の作家による長編小説です。1983年に出版(30年前!)された作品で、本はもちろん当時のもの。何年前かは忘れましたが、アボジと倉庫の整理をしている時に「おー懐かしい!」と引っ張り出してきたのがその本です。アボジは物語の中で、《야,별찌!(あぁ、流れ星!)》という台詞を記憶しているようでした。そして私に「本当にいい小説だから、いつか読んでみろ」と。当時まだ朝鮮語の原書を読んだことがなかったものの、いつかは読んでみようと受け取りました。
その後、オモニもその本を見るなり、懐かしがりながら《야,별찌!》と言ったのは驚きでした。聞くとどちらかが相手に教えてあげたのではなく、別々の時期・場所で同じものを読んでいたといいます。すごい偶然ですが、主人公の名前も内容も忘れてしまったのに、唯一覚えていたのが同じ台詞というのもなかなか不思議です。そんなに印象的な台詞がどのような場面で出てくるのか、まだ読んでもいないのに様々な情景を思い浮かべました。
朝鮮語で長い文章を読むのにも慣れ、やっとその本を手に取ったのが大学3年のとき。内容に引き込まれながら序盤、中盤…と進み、「ここかな?」という予想がはずれるたび期待はさらに大きくなります。しかし後半、いつまで経っても主人公たちは肝心の台詞を言ってくれず、結局最後まで《야,별찌!》は出てきませんでした。何十年経っても両親が記憶している台詞がどれほど感動的なものなのか、それを体験したくて読んだのに…。単に見落としただけなのか、でもそんな印象的な台詞が出てくるからには前後の文脈もそれなりになにかを予感させるはずなのです。とにかく、最後の一行を読み終えたときは少し肩透かしをくらったような気分でした(内容はとてもよかったのですが)。
久しぶりに表紙を見ながら、先々月帰省したときに持ってきたことを思い出しました。《야,별찌!》を読めなかったのは、やっぱり納得できません。今度こそ両親の思い出の台詞を探し出すために、また読み始めてみようと思います。(理)