在日朝鮮人フットボーラーたちの軌跡から
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11月号の特集は「スポーツと政治・考」。表紙で登場してくれた男性も実はスポーツマンです。FCコリアの社会人一部リーグ初優勝の快挙は、11月号の誌面でも紹介していますが、表紙の康成宇さんはFCコリアのゴールキーパーです。
今回、表紙は撮り下ろしで、モデル選びをする際、特集がスポーツなので何かしら関連した方がいいなぁと思い、FCコリアをツテにアタックしたところ、二つ返事。当日ロケ地で初めて顔を合わせたのですが、康さんはなんと学部時代の同級生の弟さんでした。
表紙を見ればわかるようにロケ地は渋谷スクランブル交差点です。撮影日は日曜日とあって、多くの若者でごった返していました。横断歩道の真ん中で撮ったので、カメラマンさんとモデルさんは信号が青になっては出動、赤になっては退散、という一連の動きを20回以上は繰り返したんじゃないでしょうか。こんな感じで。
終盤はカメラマンさんとモデルさん、息が合ってきてあうんの呼吸で「寄せては返して」を繰り返していました。私はといえば、荷物当番しながらただ二人を見守っていました(笑)。
11月号のこぼれ話はこのくらいにして。
(相)さんも書いていたとおり、特集記事はなかなかの力作ぞろいです。個人的には、とくに慎武宏さんの文章をぜひ読んでいただきたいです。
私も今回、2010年に出た慎武宏さんの著書、「祖国と母国とフットボール」を遅まきながら手に取り読みました。
同書は、安英学、鄭大世、梁勇基、李忠成といった若い選手から、金光浩さんはじめ在日朝鮮人のサッカーの礎を築いた往年の選手まで、在日朝鮮人のフットボーラーたちのサッカーにかける情熱を追った渾身のルポルタージュです。在日朝鮮人のサッカー史を語る上で、必然的に関わってくる国籍や再入国の問題、高体連の問題、そして書籍名にあるように朝鮮半島の北と南、生まれ育った日本とのはざまで生きるさまざまな葛藤など、サッカーにとどまらない輻輳的な在日朝鮮人の記録になっています。在日朝鮮人史においても、価値ある資料だと思います。
とくに注意深く読んだのは、第7章「祖国と母国とサッカーと」で登場する李忠成選手の箇所です。李忠成選手とは母校が同じ東京朝鮮第九初級学校ということもあり、かねてから何かと「気になる」存在でした。かれは一級下ですがサッカーの腕前は当時から折り紙つきで、注目を集めていましたね。周知の通りかれはサッカーに専念するために中学から日本の学校へ、そして「日本国籍取得」という生き方を選んだわけですが、初級部時代の李選手の同級生からかれの話を聞いたり、SNSなどで同窓会の写真を見た時は、勝手に安心感のようなものも感じていました。
同書で紹介されている李選手はじめ多くのサッカー選手たちの言葉からは、「在日朝鮮人」という存在と「サッカー」をめぐったさまざまな人生、生き方を垣間見ることができ、この本は、読む人にサッカーを通じて在日朝鮮人に対してものすごく柔軟な理解を与えるかもしれない、と思いました。サッカーやスポーツの持つ力が、政治が越えられない一線を飛び越えるように。
何より、世代を越えて脈々と受け継がれる在日朝鮮人サッカー選手たちのサッカーにかける情熱、在日同胞社会への深いまなざしには、胸に熱いものがこみ上げてきます。読みながら何度も目頭が熱くなりました。
ルポルタージュそのものとしても、その取材量には頭が下がります…。一つのテーマを掲げ、追いかけ、これほど厚みのある読み物を生み出す信念に、いち記者として大いに刺激を受けました。
詳しくは、ぜひ同書を読んでいただきたいです。合わせてイオ11月号を読んでいただけたら、サッカー以外のスポーツとともにより理解が深まると思います。(淑)