ウリハッキョの英語活動
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今年4月から、朝鮮学校の初級部では「英語活動」が始まりました。
10月26日、初級部の「英語活動」をレベルアップさせるための第2回研究授業が横浜朝鮮初級学校と神奈川朝鮮中高級学校で行われ、取材に行ってきました。関東地方の英語教員たちが参加した研究授業のテーマは「初級部と中級部の連携」。朝鮮学校で英語は中級部から習いますが、すでに70%の初級学校で「英語活動」が進められています。開始時期、頻度、教材、講師は学校ごとに違いがありましたが、今年4月から統一教材をもとに授業を進めるようになりました。もちろん、一斉にというわけではありません。
参加者たちは、まず横浜初級6年の「英語活動」を参観。講師は神奈川中高で十数年間、英語を教えるサマンサ・ヤロビーさん。サマンサさんは、「What colors do you like?」「What sports do you like?」などの質問を手がかりに、子どもたちがゲーム感覚で好きな色やスポーツ、果物を聞いて答えられるよう、授業を進めていきました。互いの表情を伺いながら会話を楽しむ雰囲気作り、全員参加型の授業に教員たちは興味津々。続いて中1の教室に移動し授業を参観しました。
その後は、同校の教員を交えた意見交換。サマンサさんは、「朝鮮学校の子どもは二つの言葉を学んでいるので英語の習得も早い。知識欲が旺盛な子どもたちに私自身も刺激を受けている。注入式の授業は嫌がるので、一人ひとりの状態を見ながら授業を進めている。クリエイティブな授業を心がけている」と経験を語っていました。初級部6年担任の成明美さんは、「外国人講師への興味もあり、英語を通じて異文化を学んでいる。英語をよりよく学ぶためにもウリマルをきちんと学ばなくては、という意識が芽生えており、言語全般への興味も湧いている」と、「英語活動」が始まってからの変化を伝えていました。
初級部の「英語活動」は、英語を通じて、異文化への興味と理解を広げ、積極的なコミュニケーション能力を育むことが目標です。英語の音声や基本的な表現に慣れることも目指しています。
神奈川県下では川崎初級幼稚班が週に2回、鶴見朝鮮幼稚園が週1のペースで英語を教えるなど、早期英語教育に熱心な地域と言えます。神奈川中高は以前から語学教育に力を入れているので、初級部の英語活動を進めるうえでも人材が豊富な地域と言えるでしょう。
参加者たちは、◇中高級学校が併設されていない初級学校における講師の確保や学区内の連携◇「英語活動」の開始時期や頻度◇初級部の「英語活動」を踏まえた中級部の授業開発◇民族教育全般における英語教育の位置づけについて、活発に意見交換を行っていました。まとめを行った朝鮮大学校外国語学部の姜承福教員は、「中級部へのスムーズな移行を実現するためにも、今必要なのは経験だと思う。『英語活動』がどんなメリットやデメリットがあるのか、理論と実践を積み上げてほしい」と期待を語っていました。
最近、日本の文部科学省は、今後小学校の英語教育の開始時期を現行の5年生から3年生に引き下げ、5年生からは正式な教科にする方針を決めました。日本の学校では2011年度から5、6年で週1回の外国語活動が必修化され、英語熱がますますヒートアップしています。このような流れを受け、朝鮮学校の保護者のなかでも「英語を」という声は高いですが、英語をいつ、どういう形で始めるのかは、慎重な議論が必要だと思っています。
朝鮮語、日本語、英語という3つの言葉を話せるのはもちろん理想ですが、一度に多くの言語を学ぶことは大変なことですから…。
朝鮮学校の言語教育は、朝鮮語を中心に日本語、英語の3言語を伸ばすという観点で進められていますが、初級部で英語をするとなると、考えるべき論点がいくつかあると感じます。
2008年2月号のイオで「朝鮮学校はイマージョン!」という特集を組んだとき、神奈川中高の朝鮮語、日本語、英語の先生に協力いただき、「朝・日・英3言語を学ぶ良さは」と題する座談会をしました。
以下は英語を教える張先生の発言の一部です。
…朝鮮学校で、アイデンティティ教育としての朝鮮語教育を進めてきたことは成功だった。高級部になると、生徒たちは外国語としてではなく、自己証明の証として、民族のシンボルとして自身が修得した朝鮮語を挙げる。それが朝鮮語や他の言語の修得の意欲にもつながっていく。…生徒たちと海外研修に出るが、海外のコリアンと朝鮮語で話せることも誇りや自信につながっているようだ。
一般的に人間は生まれた国の言葉が母語となるが、人間の言語に関する知識、経験は他の言語を学ぶことでもっと豊かになると思う。その点、朝鮮学校では3つの言語を学んでいるので、日本学校よりも、いいものを与えているだろうし、異文化へのスイッチ機能も持っているだろう。この現状に満足するのではなく、朝鮮学校のすべての教科教員が「朝鮮語イマ-ジョン」の言語空間で教科教育、言語教育をしているという意識をもってそのレベルを高めていくことが肝心だ。…
座談会では3つの言語を生かした学内イベントや、民族教育の中で3つの言葉をどう位置付けるのかという「長年の宿題に答えを出すべきだ」という課題も提案されました。5年たった今も大事な課題であり続けていると思っています。
日本の教育の趨勢を無視することはできませんが、それに押し流されることなく、ウリハッキョ独自の英語教育を打ち出すことが大切だな、と改めて感じた取材でした。
さて、11月3日、横浜朝鮮初級学校で「第15回ムジゲフェスタ」が行われます(11時半から)。
13時10分からの学生公演では、近隣の青木小学校の合唱クラブも友情出演し、14時からは歌謡グループ「コッタジ」の公演があります。皆さん、ぜひお誘い合わせのうえ、お楽しみください。(瑛)
Unknown
「国際都市」を標榜する横浜市が、朝鮮学校への助成金を「国際情勢に応じて支給しないように」改定したことは本当に残念です。
彼らの目には、「現実の姿を見て自分で考える」という思考がもう欠落してしまっているのでしょう。