ハルモニたちの学び舎
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先月の大阪取材の際の話を一つ。
滞在期間中、印象に残った現場の一つが、地域の夜間識字学校「生野オモニハッキョ」だった。
生野オモニハッキョの「オモニ」とは朝鮮語で母、「ハッキョ」は学校の意だ。主に在日朝鮮人1世の女性たちに日本語の文字を教える場として1977年7月、生野区桃谷の日本基督教団聖和教会内に開設された。当時の名前は「生野識字学校」。1世のオモニの、「生野区内に文字を学ぶ場がなくて、学べない人がたくさんいる」という問題提起がきっかけになったという。初めは生徒数人とスタッフで、教室は教会の礼拝堂だったとか。その後、生徒の数は増え、最盛期には80人以上にのぼったという。
いくつかの紆余曲折を経ながらも、学校は今年で創設から36年を迎えた。現在は週2回、月曜日と木曜日に授業が行われている。生徒数は30人あまりで、近年ではオールドカマーに加えてニューカマーも多く学んでいる。
講師を含めたスタッフは20人ほどで、みな地域のボランティアの人たち。このような活動を地道に36年間続けるというのは言うほど簡単ではない。頭が下がる思いだった。
朝鮮半島から渡ってきた在日1世(および1世に近い2世)の女性たちは日本でも生活に追われて教育を受ける機会がなかったり、義務教育制度後も貧困のために就学できなかったケースが多い。「女に学問は必要ない」という理由で学校に行かせてもらえなかった影響もあるのだろう。
文字の読み書きができないというのは公共交通機関の利用、病院、役所での手続きなど日常生活において想像以上に苦労が多いと思う。それに加えて、精神的な重圧や恥ずかしさにも苛まれるのではないか。文字を学ぶことで自身の視野や行動範囲が広がる。ハルモニたちにとって学ぶということは、長いあいだ自身を縛ってきたさまざまな苦難から自身を解放する営みでもあるのかもしれない。
昨年の開校35周年に際して発行された記念文集をいただいたのだが、そこには生徒であるオモニたちの手書きの文章が載っている。書いたものをそのまま載せるということで、誤字、脱字などは添削されていない。たどたどしくも力強いオモニたちの筆跡から、彼女たちの喜びが伝わってくるようだった。
1時間半あまりの滞在だったが、ハルモニたちの学ぶ姿を見ながら、たくましく生き抜いてきた在日1世のバイタリティをあらためて目の当たりにするような気がした。