「国連・人権勧告の実現を!」集会とデモ、そして籾井NHK会長発言
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1.「国連・人権勧告の実現を!」集会とデモ
先週土曜日(25日)に代々木公園野外ステージで行われた、「国連・人権勧告の実現を!―すべての人に尊厳と人権を―」という集会とデモに参加した。その内容についてまず報告したい。
差別や排外主義など日本国内にある人権侵害の現状に対し、国連の人権機関から数々の勧告が出されているにもかかわらず、日本政府が無視し解決のために積極的に取り組まず、昨年には勧告に対して「従う義務はない」と閣議決定するにまでいたった。この集会とデモは、こうした状況を広く訴え日本国内における人権侵害の現状を改善する目的でもたれたものだ。昨年12月14日に、「国連・人権勧告の実現を!~すべての人に尊厳と人権を~」というキャンペーンを進めるための立ち上げ集会がもたれ、25日の集会とデモにつながった。
集会では、次のような問題が扱われ、それぞれの問題に取り組んでいる人たちが発言した。
日本軍「慰安婦」問題/外国人労働者差別/障害者問題/セクシャル・マイノリティ/朝鮮学校無償化排除問題/部落差別/アイヌ問題/沖縄・琉球問題/福島被災者問題/「日の丸・君が代」問題/特定秘密保護法
集会最初の主催者代表のあいさつでは次のような内容が話された。
――今日の主催団体である、「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会は、これまで様々な人権問題に取り組んできた個人、団体が集まり、昨年末に結成した。私は日本軍「慰安婦」問題の解決を求める運動に関わってきた。
非常に悔しく思っていることの一つは、慰安婦問題の解決を求めた時に、人権問題として理解されるのではなく、韓国政府との外交カードという文脈で理解されることだ。日本vs韓国という問題ではなく、日本vs国際社会、国際社会のなかで日本の人権意識が問われているのだということを訴えたいと思い、私も実行委員会に参加した。日本政府は、国連の勧告には従う義務がないということを閣議決定までしている。これは許せないとキャンペーンを立ち上げた。
22日に神戸の朝鮮学校に何者かが侵入し、「お前は朝鮮人か」と声をあげて、教員に金属の棒で殴りかかるという事件があった。こうしたヘイトクライム、あるいは「朝鮮人は帰れ」というヘイトスピーチに対して、日本政府は「遺憾である」と発言しているが、日本政府による、例えば朝鮮学校を「高校無償化」から排除するという差別的な政策が、こうしたヘイトクライムやヘイトスピーチを煽っている、あるいはお墨付きを与えている、日本政府自身が差別拡大の張本人なんだということを、私たちはこの運動を通して訴えていきたいと思う。今日は国連・人権勧告を遵守せよという切り口で、私たちが抱えている人権問題の解決を訴えていきたい。――
あいさつの後、「戦争と女性の暴力」アクション・リサーチ・センターの西野瑠美子さんが日本軍「慰安婦」問題についてアピールした。
西野さんは、――日本軍「慰安婦」問題については90年代の早い時期から国連の各機関から日本政府に対し解決を求め勧告も出している。米国はじめ各国からも日本政府への抗議の声が上がっている。しかし、日本政府は勧告に対し「従う義務はない」とまで言い、現在の安倍政権は軍事国家化を強める中で歴史認識を修正、歪めようとしている。そして、河野談話の撤回への流れを強めている――という内容で話しながら、現在の日本が危険な方向に進んでいることを強調した。
朝鮮学校に対する無償化排除問題では、弁護士の康仙華さんが赤ちゃんを抱きながら壇上でアピールした。その他の発言者も、それぞれの問題の「いま」を訴えると共に、日本政府の対応を批判していた。
多くのイシューを同時に扱うことに、最初は少し心配したが、私自身が発言の内容に触発され考えを深め広げることができた。感想を聞いた参加者も、「多くの問題について知ることができた。それぞれの問題に取り組んでいる運動が相互に作用しながら、運動が広がり解決に向けて前進すればよい。今日の集会とデモがよいきっかけになったと思う」と語っていた。
集会終了後、代々木公園野外ステージから渋谷駅を通って参加者たちがデモ行進した。
2.籾井NHK会長発言
デモ隊は、原宿と渋谷の間にあるNHKのすぐ近くを通ったのであるが、同じ25日にNHK新会長の籾井勝人氏が就任記者会見でとんでもない発言をしていたのであった。
日本軍「慰安婦」問題について、籾井氏は次のように発言した。
「戦争をしているどこの国にもあった」「慰安婦そのものは、今のモラルでは悪い。だが、従軍慰安婦はそのときの現実としてあったこと。」「会長の職はさておき、韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うからややこしい。」「お金をよこせ、補償しろと言っているわけだが、日韓条約ですべて解決していることをなぜ蒸し返すのか。おかしい。」
この発言らに対し、日本のマスコミも批判を強めているが、その論調の多くは、「中立・公正性が要求されるNHKの会長として問題」というものだ。「中立・公正でない」から、この発言が犯罪的なのではない。「慰安婦そのものは、今のモラルでは悪い」と言いながら、結局、当時の日本軍「慰安婦」制度を肯定しているのであり、他国への侵略、虐殺、植民地支配などの日本の国家犯罪を肯定しているのに他ならない。現在も苦しんでいる日本軍「慰安婦」制度の被害者たちを、さらに苦しめ愚弄する発言だ。
逆に「日本軍「慰安婦」は当時も今も犯罪であり、日本軍により行われた日本の国家犯罪で到底許されない。しかし、現在も日本政府は被害者に対し補償も正式な謝罪も行っていない」などと発言しても、「中立・公正ではない」と、マスコミは批判するのか? と、疑問形で書きながら、確実に批判するであろうマスコミが2~3、頭に浮かんでくるのが今の日本社会だ。
橋下徹・大阪市長も27日、「籾井会長が話したことはまさに正論」と公言している。
籾井氏に対する辞任要求の声が高まっている。それは当然として、「籾井会長が話したことはまさに正論」と言った橋下徹氏も当然辞任すべきである。昨年5月15日に日刊イオで「橋下氏を日本社会は引きずりおろせるのか」という文章を書いたが、今も橋下氏は市長として公の地位にいる。
籾井氏の発言に対し、菅義偉官房長官は「個人として発言したと理解している」「『会長としての発言ならば取り消す』と話したので問題ない」と話すなど問題視しない方針を示し、安倍首相は28日の国会での答弁で、「新会長をはじめ、NHKの皆さんはいかなる政治的圧力にも屈することなく、中立、公平な報道を続けてほしい」と開き直り、破廉恥きわまりないことをのべている。日本政府が籾井氏と同じ立場であると実質的に公言しているわけだ。
籾井氏の発言やそれに対する橋下市長の発言、日本政府の対応は、最初に書いた「国連・人権勧告の実現を!―すべての人に尊厳と人権を―」の集会とデモの主催者や参加者の思いとはまったく対立するものであり、国連の人権勧告をさらに踏みにじるもの、西野さんの発言にあるように、歴史を修正することで日本の軍国化を進めようという考えのもとに意図的に行われているものだ。そして、主催者代表のあいさつにあるように、「日本政府自身が差別拡大の張本人」であることをまた露呈させた。
私には、日本という国が崩壊の一途を辿っているようにしか見えない。(k)