「60万回のトライ」ついに観ました
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先週の土曜日(22日)、映画「60万回のトライ」の東京での特別試写会に行ってきました。
「60万回のトライ」は、大阪朝鮮高級学校ラグビー部のドキュメンタリー映画で、監督はソウル出身の朴思柔さんと在日3世の朴敦史さんのコマプレスの二人。3年前、全国大会でベスト4になったチーム(主に3年生)の1年間を追っています。
映画が作られると聞いてから、実際に観る日を本当に楽しみにしていた作品でした。1日でも早く観たかった。以下、観た感想を整理せずに書きたいと思います。
期待にたがわず素晴らしい作品でした。その素晴らしさを一言で表現するなら、監督のラグビー部や朝鮮学校、在日同胞に対する溢れ出る愛情だと言えるのではないでしょうか。朴思柔監督は、日本に来るまで在日同胞や朝鮮学校についてほとんど知らなかったと言います。取材活動の中で、在日同胞たちと出会う中で得た、感動や喜び、驚き、使命感など、いろいろな思いが作品に凝縮されていました。
世界の中で在日朝鮮人は非常に特異な存在であり、特異な精神世界をもっており、民族教育をはじめ在日朝鮮人が行っていることもものすごく特異なことなのでしょう。映画はその「特異さ」をうまく説明してくれている、朝鮮学校とはどのような学校であり、なぜ同胞たちは朝鮮学校を守るのかが語られている、それが作品の最も重要なところなのだと思います。
金明俊監督の「ウリハッキョ」もそうですが、中にいるわれわれが、なぜこのような作品を作れないのか。嫉妬のような感情をもつし課題を突きつけられているようでもあります。「中にいるわれわれ」と書いたけれど、監督の二人が、では「外にいる」のかというと、まったくそうではなく、同胞たちが背負っているものを、今では監督たちもまったく同じように背負っていこうという覚悟が、作品を通してだけでも伝わってきます。その点でまず私は心を揺さぶられました。
なぜ作れないのかの答えのひとつでもあるのですが、作品の質を支えているのは、膨大な取材、テープの量です。撮影したテープは500本以上になったといいます。私も大阪朝高ラグビー部に関しては、全国大会などの取材を8年ほどやってきましたが、試合の当日に取材するのがせいぜい。しかし、コマプレスの二人はありとあらゆる場所に出没しカメラを回していることがわかります。朴思柔監督の健康状態を考えると、その執念、情熱に本当に頭がさがります。そして、監督二人の信頼関係が素晴らしい作品を生んだのだと思いました。
上映終了後、舞台に上がった関係者のひとりが、「素晴らしい青春映画」だと評していました。ラグビー部員たちをはじめとする朝高生たちの笑いあり、涙ありの高校生活が描かれていて、本当に素晴らしい青春映画となっています。試合の場面をもうちょっと少なくしてでも生徒たちの日常にもっと多くの時間をさけばよかったという印象も持ちました。
映画の中では、「高校無償化」問題、補助金問題で署名活動などをする生徒や先生の姿なども出てきます。いま現在、生徒たちがおかれている状況も含めて、彼ら彼女らの青春であり、それは避けて通れないものです。そのような「政治的」な内容をどのように、どの程度出すのかは、いろいろと意見があるでしょうが、私は作品の描き方は良かったと思いました。
「高校無償化」・補助金問題は、この3年間の焦眉の話題なので当然出てくるわけですが、映画の中には夏休みに生徒たちがサマースクールの動員で日本高校に通う同胞生徒の家を回る場面も出てきます。私は、監督がこの場面を撮影したこと、この場面をそれなりの分量で作品の中に入れたことに、大きな感銘を覚えました。動員に回る生徒、こういう生徒を育てた親と民族教育、動員に回らせた地域の同胞コミュニティ――地味な場面ながらも、同胞社会がこれまでどのように守られ維持され、困難な状況の中でいま何をやらなければならないのかを教えてくれるものでした。
逆に、朝鮮学校の現在の日本社会の中での「政治的な立場」から、ボツにしなければならなかった多くの場面があったことでしょう。本当は作品の中に入れたかった監督の思いが詰まった場面たちが、現在裁判を闘っている状況の中で、どうしても入れられなかったのではないか。生徒たちの日常生活をもっと多く、という私の印象も、ここから来るのかもしれません。情勢が変わる中でいろんな場面が加えられていき、これからも「60万回のトライ」は進化していくのだと思いました。
全国大会の初戦で脳震とうとなりその後の試合に出場できなかった選手のために、強豪校の日本の高校生が結集して試合する場面があります。あの場を含めて、日本高校の選手や監督が朝高生や朝高に対して(無償化問題も含めて)どのような思いをもっているのかが取り上げられていればと、その部分でちょっと不満が残りました。
私はそれでもラグビー部を取材し映画に出てくる試合の多くは現場にいたので、作品に対する思い入れがそれなりにあったのですが、まったく真っ白な状態で観る人たちはどのような感想を抱くのでしょうか? それが気になります。
最後に、私が一番驚いたのは、映画の最初のところで朴思柔監督の、たぶん日本に来て間もない頃の映像が登場したところでした。今の姿との違いに驚いたというか、笑ってしまいました。
朝鮮新報のネット版にアップされた鵜飼哲さんの感想もぜひお読みください。「〈60万回のトライ〉我々はこの映画から何を学ぶべきか」http://chosonsinbo.com/jp/2014/02/0224ib-2/
一番最初の写真は試写会の開始前のもので、空席が写っていますが、上映時には立ち見も出る大盛況でした。
本当に素晴らしい映画です。ぜひ、劇場に足を運んで観てもらいたいと思います。ひとりでも多くの人(日本人)が観ることによって、朝鮮学校を取り巻く今の状況が変わるかもしれません。そんな力をもった映画だと思います。(k)
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以下、(淑)さんが以前のブログで紹介してくれた上映情報をそのまま活用させてもらいます。
3/15(土)より オーディトリウム渋谷でキックオフ!http://a-shibuya.jp/archives/9164
【特別鑑賞券1,000円(税込み)】絶賛発売中
問い合わせは浦安ドキュメンタリーオフィス TEL:070-5454-1980 FAX:047-355-8455
info@urayasu-doc.com
連日10:30~(本編106分)
当日一般1,500円 学生・専門1,300円 シニア・会員1,200円
映画公式サイトhttp://www.komapress.net/
◆映画を語ろう~トークイベント情報
3/15(土)初日舞台挨拶・朴思柔監督ほか
3/16(日)朴思柔監督
3/17(月)鵜飼哲(フランス文学・思想/一橋大学)
3/18(火)鄭栄桓(在日朝鮮人史・朝鮮近現代史/明治学院大学)
3/21(金・祝)田中優子(日本近代文化・アジア比較文化/法政大学)
3/22(土)中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)
3/24(月)村上晃一(ラグビージャーナリスト)
※3/29より第七藝術劇場(大阪・十三)にてロードショー。以降、名古屋、神戸、札幌など全国順次ロードショー(韓国で夏以降、劇場公開予定)