映画「南部軍」を観て
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ひと月ほど前、4月から日本で公開される韓国映画「南部軍」の試写会に足を運んだ。
「南部軍」は1990年の作品。朝鮮戦争時、朝鮮半島南部で活動した山岳パルチザン部隊(南部軍)に従軍した李泰の手記を元に、部隊の悲劇的な末路をリアルに描いた。監督は韓国きっての社会派監督・鄭智泳。公開された年の国内映画としては2番目のヒット作となった。鄭監督の出世作でもある。
主人公の李泰を演じるのは、若き日の安聖基。ほかに崔民秀や、今は亡き崔真実も出演している。
長らく反共を国是としてきた韓国(それは今も変わっていない)では、朝鮮民主主義人民共和国に呼応して反旗を翻したパルチザンは「アカ」「共匪」と呼ばれ、絶対悪として描かれることはあっても共感を呼び起こすような描き方はタブーだった。軍事独裁政権の時代が終わりを告げてまだ大して時間が経っていない24年前の1990年という時期にこの作品が制作・上映されていた事実に少々驚いた。
作品のあらすじは以下のとおり。
ソウルの通信社に記者として勤務していた李泰は戦争勃発後、社が朝鮮人民軍に接収され、そのまま朝鮮中央通信社の従軍記者となり全州に派遣される。その後、9月に国連軍が仁川に上陸すると、南朝鮮労働党指揮下の全羅北道パルチザンの山岳拠点に派遣され、戦闘部隊に編入。山から山へと転戦を続け、南朝鮮労働党指導者の李鉉相が直接指揮する南部軍に配属される。北との交信も途絶える中、後方撹乱のため智異山を拠点に戦いを続けるパルチザンだったが、韓国軍の大規模な掃討作戦によって次第に劣勢に追い込まれていく。飢えと寒さ、疫病の中でなすすべなく逃げるしかないパルチザンたち。仲間が次々に犠牲となり、脱落していく中、果たして李泰の運命は―。
農民、学生、詩人、旧日本軍あがりの軍事指導者など、それぞれの思いを胸に秘めた多種多様な人々によって構成されたパルチザン部隊。彼らを指導するする南労党派と北の朝鮮労働党との関係、隊員同士の恋愛と別れ、山から山へ渡り歩きながらの血みどろの戦い、部隊を襲う飢えと寒さ、そして疫病―。作中では極限状況に置かれたパルチザンたちの壮絶な生き様が描かれる。
題材が題材なだけに、映画の展開はひたすらに重い。同胞同士の殺し合いという悲劇。友軍の中でも時に憎しみが爆発し、裏切りが起こる。祖国分断が現実のものとなる中で、それに抗うため勝算なき戦いに身を投じる隊員たち。多くの命が失われた挙句に、パルチザンの存在は顧みられることなく置き去りにされ、歴史から葬り去られてしまう。彼らがたどる悲劇的な末路を知っているので、なおさらその姿に胸が締めつけられる。
1945年から現在にいたるまでの朝鮮半島の歴史と北南関係を考える上で多くの示唆に富む作品だと思う。
「南部軍」は4月26日から渋谷UPLINKで「韓国社会派映画監督チョン・ジヨン特集」と題し、彼の最新作「南営洞1985」とともに上映される。
http://www.uplink.co.jp/movie/2014/24392
「南営洞1985」は、軍事独裁政権下の韓国における治安機関の非人道的な取り調べを題材にした作品で、両作品とも日本で劇場初公開だ。
今月末からは「済州島4・3事件」を描いた「チスル」も公開される。両作品が描いている4・3事件と朝鮮戦争の間はわずか2年。2つの出来事は解放から分断、戦争、そして分断の固定化にいたる朝鮮半島の現代史の中で不可分に結びついている。
李泰の手記は日本でも平凡社から翻訳が刊行されているので、興味のある方はこの機会に読んでみてはいかがだろう。(相)
Unknown
>24年前の1990年という時期にこの作品が制作・上映されていた事実に少々驚いた。
昨年の「高地戦」も良かったのですが、フィクションとしてのこの作品に比べて「南部軍」は非常に興味深いですね。
「チスル」とともに必見ですね。