子どもの眼差しの先にあるもの
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先週、東京・六本木の森美術館で開催中の「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」(5月31日~8月31日)に行ってきた。
本展は、「異なる文化の間、現実と想像の間、大人と子どものはざまなどさまざまな境界を自由に行き来する子どもの性質に注目し、その視点を通して世界を展望する」がコンセプトの企画展だ。タイトルの「ゴー・ビトゥイーンズ(go-betweens)」とは媒介者、仲介者の意。19世紀後半のニューヨークで貧しい移民たちの暮らしを取材した写真家ジェイコブ・A・リースは、英語が不自由な両親の橋渡しとしてさまざまな用事をこなす移民の子どもたちをこう呼んだ。
子どもを「異なる文化や価値観を媒介する存在」、あるいは「世界をのぞく窓」として捉えたのが本展の特徴といえようか。
作品の表現手法は写真、映像、インスタレーションなどさまざま。日本、韓国、中国、インドネシア、フランス、オランダ、パレスチナ、アメリカ、オーストラリアなど世界各国のアーティスト26組の作品群はどれも見ごたえがあった。アメリカのフォトジャーナリズムの草分け的存在である前述のジェイコブ・リースやルイス・ハインによる19世紀末~20世紀初頭の貴重な写真、ポップアート作家・奈良美智の初公開作品、パレスチナを舞台にした映画「自由と壁とヒップホップ」の監督ジャクリーン・リーム・サッロームと映画に出演したパレスチナ人ヒップホップグループ「DAM」のメンバー、スヘール・ナッファールによる映像作品など、この方面にあまり詳しくない私でも知っている有名どころの作品も展示されていた。
在日朝鮮人フォトグラファー・金仁淑さんの作品もあった。家族のポートレートや朝鮮学校の日常など自身が生まれ育った大阪の在日朝鮮人コミュニティに焦点を当てた写真は、文化のはざまを行き来しながらしなやかに、たくましく生きる子どもたちの姿が印象的だった。会場入口近くに展示されていたこともあり、数ある作品の中でもとくに目立っていたように思う。
見た感想としては、展示のコンセプトがよかったことを挙げたい。「go-betweens」というある意味漠然とした設定によって、さまざまな子どもたちを扱った多様な作品が展示され、見る側の想像力をかき立ててくれた。
児童労働に従事する20世紀初頭の子ども、独りで食事をしたりゲームをしたりする現代っ子、思春期特有のパワーを発散させる女子中学生、ピカソの作品について真剣に議論する子どもや、シャツをうまく着られない子ども―。在日朝鮮人や国際養子の子どもたちの姿は国民国家や伝統的な家族を前提としたイメージを揺さぶる。また、子どもたちに「地獄」を表現させるワークショップ作品も秀逸だった。これぞ現実と夢、想像の世界を行き来する感性か。
総じて、「子どもとはこうである」という固定観念というか先入観を少なからず揺るがされた。一般的に子どもに対しては笑顔、楽しさ、無邪気、希望、未来といったイメージを投影しがちだが(自戒を込めて)、子どもという存在を型にはめていないところにも共感できた。
作品の背景には政治、文化、家族など子どもを取り巻く環境や、貧困、移民、国際養子縁組などかれらが直面する問題も浮かび上がる。環境に翻弄され、社会のさまざまな矛盾を引き受けざるをえない弱い存在だが、同時に、未来への希望となりうる力も秘めている。そんな「ゴー・ビトゥイーンズ」たちの姿を通して、多様な価値が共存する世界への可能性を垣間見られた、そんな感想はポジティブすぎるだろうか。
会期は8月31日まで。その後も名古屋(11~12月)、沖縄(来年1~3月)、高知(4~6月)で巡回展が予定されている。閉会まであと1ヵ月あまりあるので、興味のある方々は会場に足を運んでみてはいかがだろう。(相)