名はどこへ行った
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折にふれて、結婚して子育てをしている友人知人に、夫婦間でお互いをどう呼んでいるのか、聞いている。
恋人同士だったときは互いの名前で呼び合うのに、結婚して子どもが産まれると、呼び名を「アッパ・オンマ」に変える家庭が多い。
最も身近な例で言えば、両親。私は生まれてこのかた、父と母が名前で呼んでいる姿を、ただの一度も見たことがない。
名前はどこへ行ってしまったんだろう―。
普段からそんなことを考えていたら、先日、毎朝見ている某局のニュースで「夫婦円満のコツはファーストネームで」という特集を組んでいた。
広告大手の博報堂によると、妻の呼び方で、「ママ・お母さん」、「おい」「ちょっと」など、名前以外の呼び方をしている人は64%で過半数。ファーストネームで呼んだり、「ちゃん・さん」をつけて呼んでいる人が36%という結果だった。
番組では、名前で呼びかける行為が、体内のホルモンの働きに影響を与えるという研究結果があると伝えていた。既婚女性に第三者が名前で呼びかけるという実験の結果、愛情を感じる時に増えるといわれるオキシトシンが、平均でおよそ16%上昇したという。
民間のシンクタンクの調査によると、名前で呼び合っている夫婦のほうが、「パパ・ママ」などと呼び合う人よりも夫婦関係への満足度が高い、というデータも。
私の周辺では、男性に親としての自覚を持たせるために、あえて「アッパ・アボジ」と呼んでいるという人もいた。
女性の場合、結婚、出産をすると「◯◯さんの奥さん」とか「◯◯のオンマ」と呼ばれることが多く、その上、夫も名前で呼んでくれなかったら、自分のアイデンティティは何だろう?と不安に思うこともあるかもしれないと想像する。
両親を見ていてもそうだが、せっかく一人ひとりの名前があるのに、名前で呼び合えばいいのに、と思う。
ただ、結婚も出産も経験していない身なので、実体験をともなわない想像や情報のみで意見を話すことには、二の足を踏んでしまう。「余計なお世話」「経験したことないからわからないでしょ」と思われていないか…。
ふと周りを見渡すと、結婚し親になった友人が多くいることに気づく。最近とくに、呼び方の問題に限らず、結婚・出産に関しては経験していないと、ほんとうの意味で相手に寄り添うことはできないんじゃないか…、そんな不安、淋しさもよぎる。もちろん反対もしかりで、独身時代を経験したからといって、非婚・未婚の人の気持ちが理解できるわけではない。
分かった風な口だけは利きたくない。相手の考えを尊重する想像力と感性を持っていたいもの。いよいよ30代に突入した、最近の物思いである。(淑)