ペ・ポンギハルモニを記憶して
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日本による朝鮮植民地支配からの解放70年を目前に、またも安倍政権による歴史歪曲が加速している。
昨日文部科学省が発表した教科書検定結果には、中学社会科教科書全てに領土問題に関して「国有の領土」と明記された。
他方、日本軍性奴隷制度に関する記述には、「現在、日本政府は『慰安婦』問題について『軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない』との見解を表明している」という日本の責任を矮小化する記述が加えられた。関東大震災時に起こった朝鮮人虐殺の被害者数については、「数千人」とされてきた従来の記述が、「当時の司法省は230名あまりと発表した。数千人になるとも言われるが、人数に通説はない」と書き加えられた。新基準などで文科省が政府見解を盛り込むよう求めたためだ。教科書は2016年から使用される。
今回の検定結果は安倍政権の「教科書改革」の下での初の検定であり、その内容は安倍首相の意向を反映するものであることは自明だ。8月15日に合わせて発表するとしている「戦後70年談話」について安倍首相は、アジア諸国に対する植民地支配と侵略の歴史への反省と謝罪を表明した村山談話(1995年)を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を継承する立場を示しているが、今回の検定結果を見ても、談話の行方に重大な危惧を覚えざるを得ない。
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沖縄に、ペ・ポンギハルモニという一人の女性がいた。日本軍の性奴隷として朝鮮半島から沖縄に連行され、植民地支配下のみならず米占領下の沖縄であらゆる辛酸をなめた。日本軍性奴隷制の被害女性たちのほとんどがその被害を公に口に出来なかった時代に、ペ・ポンギハルモニは1977年、朝鮮新報上で自らの被害を告発した。にも関わらず、その存在は十分に周知されているとは言えない。悲しきかな、在日朝鮮人の間でも。
なぜか。
植民地支配の未清算、祖国の分断、家父長制、冷戦、日本における差別、貧困…。ペ・ポンギハルモニの存在は、在日朝鮮人を取り巻くあらゆる暴力の中で、二重三重にも見えなくさせられている。
月刊「イオ」では、2014年1月号から「日本軍『慰安婦』の肖像―痛みと抵抗の記憶」という連載で、ハルモニたちの証言を集めて紹介してきた。その初回に金学順ハルモニとともにペ・ポンギハルモニを選んだのも、この2人が日本軍「慰安婦」問題を考える上できわめて重要な存在であることを記憶して欲しかったからだ。
そんな中、ペ・ポンギハルモニが証言した4月23日を記念し、昨今の歴史否定を許さないという怒りを込め、下記のようなアクションが企画されている。
*日本軍性奴隷制の否定を許さない4.23アクション~奉奇ハルモニを記憶して~*
◇日時 4月23日(木)17:30~
◇場所 参議院議員会館前(地下鉄「永田町」駅1番出口すぐ・「国会議事堂前」駅
1番出口5分)
アクションは、私もメンバーの一人として参加している、在日本朝鮮人人権協会の性差別撤廃部会が主催する。中心となっているのは、20、30代の在日朝鮮人女性たちをはじめとする若いメンバーたちだ。
同部会では、部会メンバーに向けた初歩的なジェンダー問題の学習会から始まり、近年では日本軍性奴隷制に関する連続講座、同胞社会におけるジェンダー問題を考えるための連続講座など、外に向けて積極的に問題提起することに取り組んできた。
この度のアクションを準備するにあたっては、資料学習や映画鑑賞を通して、ペ・ポンギハルモニに思いを馳せた。ドキュメンタリー映画「沖縄のハルモニ」を観て、ペ・ポンギハルモニの笑顔、涙、藁葺き小屋、質素な生活用品、映像に映し込まれたすべてに胸が痛んだ。同時に、音声が聞こえづらい条件の中、必死に耳をそばだてながらペ・ポンギハルモニの姿を食い入るように見ては、ハルモニの痛みを引き受けるように涙を流すメンバーたちの姿にも、深い感銘を受けた。
ペ・ポンギハルモニの生には、朝鮮民族が受けたありとあらゆる被害が凝縮されているように思える。日本の謝罪、祖国統一を願いながら逝去されたペ・ポンギハルモニを、私たち朝鮮人女性が記憶しなければ、歴史の闇に再び埋もれてしまうー。そんな強い危機感と責任感を持って、当日は声高に叫びたい。
そして、このような取り組みを通して、同胞社会を取り巻く困難な現状を、社会を、1ミリでも変えたいという意識のもと、集い、行動する仲間たちの存在に、私たちがやらなければならないことも、できることも、まだまだたくさんあると、力が湧いてくる。(淑)