しあわせバス時間
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今週から事務所が移転になり、職場の環境だけでなく通勤距離・方法や、それに伴って起床時間も変わりました。以前は自宅から会社まで自転車で20分だったのが、現在は徒歩とバスで約1時間。そのぶん早く起きなくてはならなくて、初めは(面倒くさくなるな~)と思っていましたが、バス通勤、実際に数日やってみるとこれはかなり良いですね。
何が良いかというと、まず空いていること。私が利用する方向は意外と乗客がまばらで、必ず座ることができるため移動が楽です。そして乗車時間。だいたい40分ほどなのですが、本を読んでいればあっという間です。行きと帰りに40分ずつで、1日1時間以上の読書時間が自然と確保できます。 …まあそれだけなのですが、最後列の端に座って冷房を自分の方へ向け、ゆっくり本を読むのが近頃の至福の時で、バスに乗る時間が楽しみにさえなっています。
今までバスを日常の交通手段にする機会がなかったので、視線の高さや、電車とは違う乗客の雰囲気や、運転手との距離の近さや、「町の中」を走って行く感じなど、車内で目にするもの全てが新鮮。特に運転手さんは関心を持って見るとけっこう個性さまざまなようで、今後注目していきたいポイントの一つですね。
私が使っている通勤定期券は、23区内の都バスがなんと乗り放題! 最近は路線図を見ながら、「お、スカイツリーにもお台場にも六本木にも行ける!」「浅草なんかもいいよね~」と、休日に行ってみたい所をチェックするようになりました。そんな時間も楽しかったり。あまり足を伸ばせていなかった色々な場所が、少し身近になったような気もします。
もっとバスのことを考えてみたいと思って、なにかバスを素材にした小説とかないかなーと探してみたところ、ドンピシャでありました。
タイトルは『バスを待って』。せっかくなので行きと帰りのバスに揺られながら読むことに。
20人それぞれの、1日のほんの少しの時間が描かれた短編集。主人公の小さな心の動きや気づきがテーマだと思うのですが、それらはバスとの関わりを通してもたらされます。
本文に「」が一つも出てこず、会話と状況描写と主人公の視線と気持ちとが交じり合いながら紡がれる不思議な文章。改行もないのにとつぜん情景が2、3歩分進んでいたり、かと思えば言葉にしないとわからないような細かな仕草を丁寧に書いていたり。しかし決して読みにくくなく、人の心の動きにとても似ている文章でいつの間にか引き込まれていました。自分も普段こんな風に移ろいながらものごとを考えているんだな、ということにも気がつきました。
主人公ごとに文体が変わり、物語の雰囲気がどれも異なるのが印象的です。バスの中に流れる時間を好きになれる、素敵な本でした。
私が乗っているバスも、こんな小さな話を乗せながら走っているのかもしれないと想像すると、ますますその時間が楽しくなってくるのです。(理)