小説「前夜」
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最近、話題になっているのは、作家の百田尚樹氏が自民党勉強会で「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と発言した問題と、フジテレビの番組『池上彰 緊急スペシャル!「反日韓国」特集』の中で字幕と吹き替えを捏造した問題だ。百田尚樹氏は、報道によると28日にも大阪府泉大津市での講演でこの問題に触れ、「その時は冗談口調だったが、今はもう本気でつぶれたらいいと思う」と話したという。完全に開き直っているのだ。
このような発言をする人間が今も堂々と作家として表舞台に出ていられるということ、発言内容を捻じ曲げて敵対意識を煽るフジテレビがテレビ局として成り立っていること、これはすべて今の日本社会の反映であり、日本社会が許しているのである。いつも書いているが、日本社会がどんどん崩壊へと向かっている一つの現れである。
東京の新大久保や大阪の鶴橋など(最近では私の実家のある京都の西院でもやっているらしい)で朝鮮人へのヘイトスピーチを撒き散らしている団体は、このような日本社会が生み出した一つの現象、顔から噴出したデキモノのようなものだと思っている。
今日は、そんな団体のことを題材にした小説を紹介したい。
題名は「前夜」(コールサック社、1500円)。
「朝鮮人、ぶっ殺すぞ!」と叫びながら街をねり歩くZTグループ。この小説には3人の主人公が登場する。ZTグループの動きを絶対に止めないといけないと行動する在日朝鮮人のポンチャンとスンジャのカップルと、両親が日本に帰化して「日本人」となったがそのことを知らずに育った在日朝鮮人の共田だ。
同じ朝鮮人でありながら、敵対せざるをえなくなった二人と共田。植民地支配からの解放後も、日本政府の差別と弾圧の中で生きていかなければならなかった在日朝鮮人は、それゆえに自分の民族的アイデンティティを否定してしまったり、自分の望まない人生を歩まざるをえなかったり、闘いを強いられたり、そして、敵対を強要されたり…。
小説「前夜」は、ZTグループの犯罪をさらけ出すと同時に、ZTグループにゴーサインを出し朝鮮人を弾圧・差別している日本の権力を、それを許す今の日本社会そのものを告発し問うている。そして、それだけでなく、先に書いたように、3人の姿を通して、朝鮮と日本と在日朝鮮人の100年以上に渡る歴史を、本質的には描いているのだ。
作者は本の「あとがき」の中で次のように書いている。
「そういえば私(たち)は、もうずいぶん前から、この社会の息苦しさを感じてきた。息苦しさは、生きづらさに直結している。在日朝鮮人をはじめ、さまざまな社会的マイノリティは、この社会にひどく充満しはじめた有毒ガスによって、悶え、苦しみ、悲痛な声をあげている。」
小説「前夜」、ぜひ、一読してもらいたい。