宗教の勧誘が来た
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ことの発端は数週間前。会社から帰宅してくつろいでいると、突然インターホンが鳴った。時刻は21時の少し前。荷物が届く予定もないし、この時間に訪ねてくる知人など私にはいない。ドアは開けず警戒しながら応えると、扉向こうの相手は開口一番「中国の侵略から日本を守ることが~…」云々。ゾッとして曖昧に対応しているうちに、その団体の新聞が入っているという茶封筒がドアポケットから滑り込んできた。あまりに気持ち悪くて、その人が帰ったことを確認した直後につい窓から茶封筒ごと投げ捨ててしまった。
先日。仕事を終えてアパートに着くと、自宅ドアの前に二人の男性が立っていた。一人は謎のマークがついた帽子を被った中年の小太り。もう一人は眼鏡をかけた、やけに身体の細い人だった。かなりの後傾体制で話を聞いたところ、「以前お渡しした新聞のご感想をお聞きしたいと思いまして」とのこと。最初は驚いたが、だんだんと腹が立ってきたのは言うまでもない。田舎者一人暮らしの帰宅時を狙って待ち伏せとは何事か。
しかし「窓から捨てた」と言うのはまずいと思ったから、「たまにいとこに部屋を貸している。自分は知らない」と嘘をつく。じゃあそれはそれとして…と、また「中国の~…」が始まった。途中、「あなたも日本人だからわかると思いますけど」と言われた時はよっぽど「自分朝鮮人っす」と言いたかったが、どこか挙動不審に説明を続ける小太り男性の狂気じみた姿が恐ろしくて口を挟めなかった。いま考えるとそれがとても悔しい。
結局、かれらが伝えたかったのは「我々の宗教は個人だけでなく世界をも救済する。さあ、あなたも」という内容。5秒で言えることを15分位かけてぐだぐだと説明された。15分あれば掃除機をかけることができたのに。貴重なお掃除の時間を返してほしい。
その日は、「あいにくですが実家の祖母が別の宗教に入っておりまして、これは一族の問題ですので私ひとりの意見ではどうすることもできません」という嘘を迫真の演技で何度か繰り返して、ようやく引き取ってもらった。今回の件で、危険信号を察知してとっさに嘘をつく能力が自分に備わっているらしいことに気づけたのは、ちょっとした収穫だった。(理)