Mayの新作「メラニズム・サラマンダー」
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先日、劇団「May」の新作「メラニズム・サラマンダー」を観てきた。過去、東京・新宿のタイニイアリスで上映をしてきたが、今年4月に閉館。今回、激団リジョロと提携しながら、10周年を迎える東京・阿佐ヶ谷のシアターシャインで初めて作品を上映した。
作品はMayのこれまでのものとは一味違うSF作品だ。舞台は「部屋」というたった一つの空間。登場人物から次々に飛び出す言葉が複雑に絡み合い、人間の根本に迫る内容だった。
紛争を逃れ、とある部屋に身を寄せた人々は、外の様子を伺いながら様々な会話を行き交わせる。中には在日朝鮮人もおり、アイデンティティを巡った葛藤も描かれる。物語が急展開するきっかけは、犯人不明の殺人事件だ。人が人を疑い始め、そこには「根拠」というものも必要とされない。
一つの大きな焦点となるのが主人公「ぼく」。2人の「ぼく」は、互いに同じ人物を見て自分の「父さん」だと言うが、「父さん」の記憶はそれぞれに正反対に刻まれている。途中、こんな台詞がある。「一本道だけに導かれて隣を並行する世界を認めない。…すべてはひとつの空間なんだ」。
本作品を手掛けた金哲義さんはこう話す。「習ってきたこと、経験したこと、信じてきたことが、時に正反対だったりする。歴史も同じ。『やっぱりそうだった』と思う時もあれば予想とまったく違ったものを突きつけられる時もある。2人の『ぼく』は、異なる現実が同時に存在していることを体現している」。
正義を主張する思想同士の戦い、見るに耐えない数々のぶつかり合い。実際に社会で起こっている現実と重なり、自分と違うものに対し想像力を働かせられない人間の弱さを、作品は繰り返し訴えているように思えた。
台詞が多く難解なイメージも受けるが、あえて疑問を抱かせることで観客を引き付けていた。(S)