互いを隔てる壁(あるいは塀)に架橋するということ
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最近、SNS上で見かけて関心を持ったイベントがある。
「突然、目の前がひらけて」と題した朝鮮大学校美術科と武蔵野美術大学両校の学生による合同展で、11月13日から21日まで開催される。
内容としては、壁を隔て隣り合う両校の2つのギャラリースペースで展覧会を開催し、両大学の学生たちで恊働して壁に橋をかけるという。展示期間中だけ、来場者なら誰でも渡ることができる。両校の卒業生、大学院生、教員ら6人が制作委員会を立ち上げた。
壁一枚隔てた隣り合う関係だが、数年前までは表立った交流はなかった。2011 年に今回の合同展の企画者のひとりである武蔵野美大の灰原千晶さんが朝鮮大学校の寮に暮らす朝鮮大生との関係性をテーマにした作品「渡れるかもしれない橋」を制作したのをきっかけに、朝大美術科と武蔵野美大袴田京太朗ゼミとの交流が始まったという。翌12年には武蔵野美大の課外センターで有志展が行われ、13 年、14年にも展覧会が企画された。
今回の展覧会には武蔵野美術大学ギャラリー FAL と朝鮮大学校美術科ギャラリーという2つの会場があり、それぞれ両校を隔てる塀越しに位置している。橋は、その2つの会場をつなぐ装置としてかけられるという。
このたびリリースされた告知資料に、「本展の開催趣旨」と題した一文が掲載されている。
https://drive.google.com/file/d/0B3ofnUWhtBWXM3p4cHJlSVBOcFU/view
互いを隔てる壁(あるいは塀)とは何なのか、それに橋をかけるという行為が何を意味するのかを示唆してくれていて興味深かったので、以下に一部を引用して紹介する。
橋は隔たりを越えていくものであると同時にその隔たりが「何」であるのかを問いかけます。
垣根を取り払って話し合うという比喩表現がありますが、実際の塀というものが単に敷地を隔てるものではなく、双方の立場を明確にし、違いをあえて強調するものであるならば、それは取り払ってはいけないものです。武蔵野美術大学と朝鮮大学校の両校について考えるとき、しばしば象徴的に捉えられる両校の境界にある塀は、出展作家たちの間でさえ意味するところは違っています。あの塀はそれぞれにとっての「何か」として存在しているのです。
みえない向こうの風景に対しての好奇心を刺激する塀。自分の生活圏を区切る行き止まりの塀。今はまだ気付けていないあやふやな自分の居るべき場所をとりあえずここだと示してくれる場所を守る塀。出展作家の一人である鄭梨愛は、「閉塞する『塀』がときには何かから守る『壁』にもなるように、反面その安心感から脱しなくてはならないと思うこともある」と言います。相手の言葉に耳をすまし、考えをめぐらせること。割り切れない複雑さごと展覧会でそれぞれにとっての壁越しの対話を提示しようとするものです。橋を渡ることで視界がひらけますが、その先になにが見えるかは私たちもまだわかりません。
引用ここまで
壁とは何なのか。
①建物の外周の部分。また、部屋などを仕切るもの
②前進を阻むもの。進展の妨げとなるもの。障害
(デジタル大辞泉)
シンプルな言葉だが、多義的で、比喩として用いられることも多い。古今東西、さまざまな文学や音楽作品にも用いられてきた。たとえば安部公房の小説「壁」、ピンクフロイドのアルバム「The Wall」、村上春樹のスピーチ「壁と卵」など。この3つだけをとっても、それぞれの「壁」に込められた意味、あるいはそれが指し示す対象は一様ではない。「橋」もまたしかり。
壁を、壊すのか、取り払うのか、乗り越えるのか、それとも…。それぞれにとっての壁の持つ意味とは、その後に続く言葉によっても浮かび上がるのではないだろうか。
合同展の制作費はクラウドファンディングサービスreadyforで募集している。つい先日、目標金額を100%を達成したとのアナウンスがあった。私も、少額ながら協力しようと思う。
そして、展覧会開催のあかつきには、会場を訪れ、実際に橋を渡ってみたい。橋の上、両者を隔てる壁のちょうど真ん中に立ったとき、一体どのような景色が眼前に広がるのだろうか。たぶんそれを見ることができる機会は今回しかない。20年ほど前にその壁に隔てられた一方の敷地内で暮らしていた一人としても、今から楽しみでならない。(相)
「武蔵美×朝鮮大 突然、目の前がひらけて」
日時:2015 年 11 月 13 日 ( 金 ) 〜 11 月 21 日 ( 土 )10:00 ~18:00
場所:武蔵野美術大学ギャラリーFAL 朝鮮大学校美術科ギャラリー
詳細は、
https://drive.google.com/file/d/0B3ofnUWhtBWXM3p4cHJlSVBOcFU/view
フェイスブックページ
http://www.facebook.com/totsume2015
クラウドファンディング
https://readyfor.jp/projects/4514