安世鴻さんの写真展に行って
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9月4~13日に神楽坂セッションハウスで開催された、安世鴻さんの写真展「重重 消せない痕跡 アジアの日本軍性奴隷被害女性たち」に行ってきた。2014年に安さんが新たに撮影した、フィリピン、インドネシア、東ティモール、中国、韓国の約60人の日本軍性奴隷被害者たちの写真を展示した写真展だ。
これまでの安さんの写真展と大きく異なるのは、写真が全てカラーという点。「現在の問題」ということを伝えるため、過去を連想させる白黒ではなくカラー写真を選んだという。写真には、被害女性たちのあらゆる表情と皮膚感、しわ1本1本が鮮明に写し出されていた。また、被害女性たちを囲む生活環境も捉えられている。「顔、身体、生活環境すべてに痛みが残っているはず。昔から使ってくすんでいく被害女性たちの身の回りの物たちと、しわが刻み込まれていくかのじょらの姿をひとつの作品にした」と説明した。
これまで安さんは「日本軍『慰安婦』」という言葉を使って写真展を開いてきたが、加害者側の視点から付けられたこの言葉を「性奴隷被害者」に改めた。「どう表記するかについて以前から迷っていたが、取材を重ねる過程で確信した」と話す。
聞き取り調査を行った被害者たちの範囲も広まった。「韓日の問題にくくってしまうと解決は難しい。アジアの問題として捉えたい」との思いで、これまで可視化されてこなかったアジア各国の被害者たちにスポットをあてた。さらに、作品たちは国別ではなく、「生(Living)」「被(Surviving)」「抱(Suffering)」「解と残(Releasing & Leaving)」とテーマごとに集められていた。国家間で政治的に語られるだけでは汲み取れない、「被害者」自身の姿を浮き彫りにしていた。
安さんは「戦争が起きれば、また同じことが繰り返される。歴史を記憶することで抵抗していかなくてはいけない。被害者たちの証言は未来へのメッセージだ」と、今回の写真展に込めた思いを語っていた。
開催中に2回、ゲストを招いてのトークショーが行われ、作品についてはもちろん、「表現の自由」などについても議論が交わされた。2012年の新宿ニコンサロン元日本軍「慰安婦」写真展中止事件。安さんは「『写真に写る人』と『撮影する人』、そして『写真を見る人』は、直線ではなく三角の関係にあり疎通し合っていると考えている。この繋がりを権力や企業が切ってしまうと、自分だけでなく、三角関係にある全ての人が被害を負うことになる」と話した。安さんは事件後に「表現の自由」への侵害と闘うために提訴。3年に渡る裁判の判決が今年10月に出る予定だ。
「表現」は、受け取る側がいて初めて成り立ち、価値が生まれる。一部の人たちだけではなくすべての人に、こういった問題に対しての責任があるということを考えさせられる展示会だった。安さんが今回出会った被害者たちの中の8人が、その後に亡くなられたという。関心を持ち、被害者たちを記憶していくことが、私たち一人ひとりにできることであり、決して小さくない大切なことだ感じた。(S)