難民問題をめぐって噴出する悪意
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シリア難民問題に関する安倍首相の訪米中の発言が物議を醸している。
安倍首相は日本時間の9月30日未明、ニューヨークの国連総会で一般討論演説を行った。シリアとイラクの難民や国内避難民に対する支援を拡大し、昨年の3倍にあたる970億円の支援を表明。難民の受け入れを進めるEU周辺国にも新たな人道支援として250万ドルの無償資金協力を行う方針も明らかにした。
問題となった発言は、その後の記者会見でのものだ。ロイターの記者から「日本が他国と同じように難民を受け入れる可能性」について質問された安倍氏は次のように答えた。
「…これはまさに国際社会で連携して取り組まなけれないけない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々はいわば「移民」を受け入れるよりも前にやるべきことがあって、それは女性の活躍であり、高齢者の活躍であり、そして出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります」
難民受け入れの可能性について問われているのに、この意味不明な回答。難民問題を「人口問題」として扱い、難民を「移民」と呼び替えるなど、世界的に切迫した人道問題に対する「先進国」の首相の応答としてはお粗末ではないだろうか。この発言を受けて、海外メディアからは批判的な論調が相次いだ(たとえばこれ
http://www.reuters.com/article/2015/09/29/us-un-assembly-japan-syria-idUSKCN0RT2WK20150929 など)。
周知のとおり、日本は難民の受け入れに冷淡な姿勢をとっており、難民認定の数は諸外国と比べても著しく低い。統計によると2014年度に日本で難民申請を行った人の数は5000人。このうち日本政府が難民として認定した人はわずか11人だった。ほかの先進国と比較しても少ない(2013年の統計によると、米国21171人、ドイツ10915人、フランス9099人)。消極的な政府の姿勢は内外から批判を受けており、制度の厳格さに加えて、入管行政の非人道性も指摘されている。
一方、安倍首相の発言と時を同じくして、難民に対する差別と偏見を煽るような某漫画家のイラストがSNS上で拡散され、「炎上」状態となった。あまりに醜悪で下劣な画像なので、あえてリンクは貼らない(「そうだ、難民しよう」のワードで検索すれば、すぐに出てくるので、興味のある方は自力でたどり着いてもらいたい)。
紛争によって住む土地を追われた人々に対する初歩的な想像力すら欠如した悪意の塊のような画像に吐き気を催し、本気で体調がおかしくなりそうだった。その画像に嬉々として賛同のコメントをつけたり拡散したりする人がいる一方、それを上回るような非難の声が上がったのがせめてもの救いだろうか。バッシングの内容自体は真新しいものではなく、生活保護受給者や在日朝鮮人に対するそれと共通しているものなだけに、根深いと言わざるをえない。(相)