文科大臣の通知に思う
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3月29日、馳浩文部科学大臣は、朝鮮学校へ独自に補助金を支給する都道府県知事宛てに通知を出した。内容は以下。
…朝鮮学校に関しては、我が国政府としては、北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総連がその教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしているものと認識しております。
ついては、各地方公共団体におかれては、朝鮮学校の運営に係る上記のような特性も考慮の上、朝鮮学校に通う子どもに与える影響も十分に考慮しつつ、朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分なご検討とともに、補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施をお願いします。…
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地方自治体が朝鮮学校やその保護者に独自に補助を始めたのは1970年代からだ。
公立学校に通う場合は児童・生徒一人あたりに年間100万円ほどの公費が出され、自己負担は給食費や雑費のみ。一方、外国人学校に対して、国の補助はない。そこで自治体は、税金を納める外国人にも教育を受ける権利があることに着目し、何より外国人学校が「学校」に準じた教育をしていることを独自に判断し、補助金を支給してきた。
今回の通知について文科大臣は「減額、自粛、停止を指示する内容ではない。公的資金の執行にあたっての情報公開をしっかりしていただきたい」と述べたが、1965年に出された文部省通達を彷彿とさせる。朝鮮学校への認可権限を持つ自治体に対して、「各種学校として認可すべきでない」とした、あの通達である。
「子どもに与える影響を十分に考慮しつつ」との文言は加えられてはいるが、民族的マイノリティがほぼ自力で運営する学校を財政的に締め付けようとする意図は、馳大臣個人の思いを踏まえても、事実として明らかだ。
3月28日、愛知県弁護士会は会長声明を発表し、政府の対応を非難した。
http://www.aiben.jp/page/frombars/topics2/910chosun.html
声明は、国連人種差別撤廃委員会が2014年8月に日本政府に出した勧告(朝鮮学校への補助金の支給を再開し、または維持するよう促すこと)を想起させながら、日本政府が地方公共団体に対し、朝鮮学校に対する補助金の再開あるいは維持を要請することを求めること、地方自治体が、憲法、教育基本法、各種条約に沿った補助金支給の運用を行うよう求めている。
また、大阪弁護士会も3月14日に「特定の外国人学校に対する補助金停止に反対する会長声明」を発表し、「朝鮮学校だけの補助金停止を指示することは、生徒たちへの重大な人権侵害であり、生徒らへの不当な差別を助長するもの」だと警鐘を鳴らした。
https://www.osakaben.or.jp/speak/view.php?id=115
国から通知が出された発端は、自民党が今年2月7日に対朝鮮制裁に関する声明を発表し、「朝鮮学校への補助金停止」を打ち出したことだ。遡っては、2010年に、国が朝鮮高校を無償化から外したことで、東京都、大阪府が補助金を停止。宮城県、千葉県、埼玉県などでも補助金が止まっている。
このことによって、朝鮮学校現場では教職員への遅配が続き、泣く泣く学費を上げざるをえない学校が後を絶たない。経済的な事情で進学を断念せざるを得ない家庭も多く、影響は深刻だ。
無償化裁判の現場でも何度も見聞きしてきたが、国は「北朝鮮憎し」の世論を増幅させるため、「北朝鮮や朝鮮総連と関連がある」とのマジックワードで朝鮮学校を問題視し、その矛先を子どもに向けている。
かつて、国が地方自治体の補助金に関して、支援団体の性格を問題視したことがあっただろうか。
日本の私立学校の中でも、宗教法人が支援する学校はいくらでもある。地方の監督責任を問題にする前に、就学支援金を悪用した学校法人への文科省の監督責任を問いたくなるのは私だけだろうか?
国連勧告無視を決め込んだ「通知」を読み返しながら、改めて思う。
国際条約が定める内外人平等、在日朝鮮人の民族教育が持つ「権利性」に光をあて、地域住民の学びを支援する趣旨で続けられてきた地方公共団体の補助金制度は、多くの朝鮮学校を助けてきた。またこの制度によって、のちに生まれた外国人学校も多くの支援を受けてきたし、日本の教育そのものを豊かにしてきた。民族学校出身であり、今は保護者となった私は、その恩恵を受けながら育ってきたし、子どもを育てている。
地域で培われた信頼は、「通知一本」で吹き飛ぶものではない。近所の議員や職員の顔が浮かんでいる。(瑛)
※写真は名古屋市長前で補助金支給を求める在日コリアンと日本市民たち。