日本初の反人種差別法~成立に向け国会審議は山場
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イオ5月号で特集を組んだ「人種差別禁止法」。
この法律制定に向け、国会が今、大きく動きだしている。昨26日には参議院法務委員会の質疑を傍聴してきた。
日本は1995年に国連・人種差別撤廃条約を批准したものの、この20年間、人種差別を禁じる法律がなかった。当時から国内法の制定は急がれてきたが、ここにきてやっと法律を作る動きが出だしたのは、昨年5月に野党議員が人種差別撤廃施策推進法案を提出したからだ。
今年3月には、川崎市ふれあい館の崔江以子さんと京都朝鮮学校襲撃事件の被害者の金尚均・龍谷大学教授が参議院法務委員会に参考人として招致され、「法律が必要だ」と訴えた。31日には法務委員会の議員たちがヘイトスピーチの被害に遭った川崎市コリアタウンへ視察に訪れ、地域社会が負った大きな傷に触れたという。
与党は、ヘイトスピーチが日本社会に与える影響の深刻さから、4月8日に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」を参議院に提出。与党案は、「差別に反対する理念法」という点で野党案と共通しているが、その対象を外国出身者、ヘイトスピーチ対策に限定している点が大きな違いだ。中でも「適法に居住するもの」に保護の限定を与えていることが、「非正規滞在者への差別的言動にお墨付きを与えている」と不安が広がっている。
他にも与党案については、◇ヘイトスピーチを国連の人種差別撤廃条約に照らして「違法」としていない、◇差別的行動の禁止条項がない、◇差別的行動の定義があいまいーな点について、修正を求める声があがっている。
しかしながら、与党案は、ヘイトスピーチの解決が「喫緊の課題」だとし、与野党の全会一致で実現させようという点は野党と共通している。
昨日の質疑で、河野国家公安委員長は、「違法でなければ、デモを禁止できない」と答弁したが、野党議員からは、差別行動についてより具体的に定義し、また、地方自治体の責務を努力義務に留めず、国と同様の責任を課すなど、実効性のあるものにすべきとの質問が続いた。
成立に向けて国会では、市民集会が続いている。4月19日、衆議院第1議員会館で行われた院内集会で発表されたアピールでは、与党法案が是正されるべき点について、詳細な指摘があったので、以下に記す。
①法目的に「人種差別撤廃条約の理念」との文言を入れる
②差別的言動の禁止条項を入れる
③「差別的言動」の定義については、
◇対象を、条約の文言通り「人種、皮膚の色、世系または民族的もしくは種族的出身」にする。
◇「著しく侮蔑する」場合も含める。
◇「地域社会」からの排除に限定せず、「社会」からの排除にする
④地方公共団体の責務を、努力義務ではなく、国と同じ責務とする。
⑤定期的な差別の実態調査を行う。
⑥被害者の意見を聴く条項を入れる。
⑦インターネット対策を入れる。
⑧人種差別撤廃教育の対象として、公務員、特に警察を明記する。
⑨差別撤廃の取り組みを検証し推進する審議会を設置する。
今、日本では、ヘイトデモが許可され、警察に守られながらヘイトデモが白昼堂々と繰り返されている。川崎では12回もヘイトデモが行われてしまった。
デモに苦しめられてきた崔江以子さんの言葉だ。
「自治体に対して、何とか禁止してほしいと訴えたが、根拠規定がないとずっと言われている。法律を作って暮らしを守ってほしい。教育・啓発・啓蒙では私たちは守ってもらえない。デモを止められません。今、議論されている法案で、私たちは本当に守られるんですか。地方公共団体が具体的な対策を講じられる、そんな法律なのですか?」
崔さんの中学生の息子のNさんは、川崎が襲撃された後、母がソファで泣きながら寝ている姿を目にしている。在特会が来る前、Nさんは「大人なんだし、説明したらわかってくれると思い、道に立った。しかし、『朝鮮人の首を絞める』と言った人を警察が守っていた―」
「〇〇人を殺す」という「殺人教唆」がまかり通る日本。特定の個人を指すものではないからと、罰せられない日本。これが「表現の自由」との兼ね合いから罰せられないという理屈は、足を踏みにじられた側からは、到底理解できない。
今、この瞬間にも、ヘイトスピーチの動画はネット上にあふれている。
改めてヘイトスピーチについて、師岡康子弁護士の言葉で説明したい。
…ヘイトスピーチとは、直訳すると「憎悪表現」だが、人を憎む差別一般と誤解を生じるので、私は「差別扇動表現」という訳を提案している。古くからある「差別表現」の問題であり、人種、民族、性別、障がいの有無などの属性におけるマイノリティに対する表現による攻撃であり、差別の一形態だ。ヘイトスピーチは就職差別、入居差別、入店差別などの日常的な差別的取り扱いと一体となり、マイノリティの人間の尊厳を傷つけ、恐怖、絶望感、さらにはPTSDなど、心身に甚大な被害をもたらす。のみならず、マイノリティに対する差別と暴力を拡大し、戦争やジェノサイドへの引き金となることは、ナチスによるジェノサイドの経験を経た国際社会の共通認識となっていた…。
(月刊イオ2016年5月号から)
25日には、徳島県教組襲撃事件の控訴審が完勝した。京都朝鮮学校襲撃裁判に続く勝訴。朝鮮学校を支援した日本市民を「朝鮮の犬」などと罵倒した言動が、司法の場で「人種差別」と認定され、これが罪とされたことも追い風になるだろう。
法案審議は山場を迎え、5月中にも成立する見込みだ。
よりよい法律を目指して!(瑛)