茨城県知事に宛てた田中宏名誉教授の手紙
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「朝鮮学校の補助金凍結は差別です」「埼玉弁護士会の警告に従って」―。
2010年度から埼玉朝鮮学園への補助金を止めている埼玉県に対し、2月20日、同胞保護者、「外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉」をはじめとする日本市民約70人が埼玉県庁前(さいたま市浦和区)で支給再開を求めアピールを行った。
埼玉県は、1982年から支給されていた埼玉朝鮮初中級学校への補助金を10年度から3年間凍結。13年度以降は予算にすら計上していない。
不支給となった補助金は累計で6000万円を超える。この権利侵害に対し、15年11月25日、埼玉弁護士会は、「拉致問題」を理由とする補助金の凍結は、「積極的に差別を助長しかねない極めて重大な人権侵害」と指摘し、最も厳しい「警告」の決定書を県知事宛に提出した。しかし度重なる要望にも県知事の対応に変化はなく、学園の面談要請にも一切応えていない。
同胞と日本市民は、職員のお昼時間にあたる正午から13時にかけて県庁正門、東門など3ヵ所でチラシを配り、横断幕を掲げ、時に「翼をください」を歌いながら、「公職につく県が差別をし、差別を助長していることを知って」と職員たちに訴えた。
13時からは民進党、共産党の各派を回り、協力を呼びかけた。応対した3人の県議は、「銭湯で外国人登録証明書を所持していなかったと警察に連行されたコリアンがいた」「北海道の祖母が強制労働させられたコリアンをかばったことがある」などと少年期に見聞きした実体験を語りながら、「知事と改めて深い話をしたい」と保護者の要望に応えていた。
その後は、学事課に対して約1時間にかけて要望を行った。「ネットワーク埼玉」共同代表の斉藤紀代美さんが補助金支給再開を求める県知事宛ての要請書を提出したあと、高石典校長や保護者たちが補助金が7年もの間、支給されなかったことが、学校運営や子どもの心に影を落としている深刻な現実を切々と伝えた。
埼玉初中アボジ会は過去5年間、月1回の要望を続けてきた。会長の趙成浩さん(45)は、「7年間、心が折れそうになったこともあったが、私たちは人生をかけて子どもたちのために闘っている。県側のきちんとした回答が欲しい」と語った。
また、金子彰・埼玉教職員組合委員長(59)は、「埼玉県がやっていることは国際人として恥ずべきこと。あなた方がやっていることは明らかな差別だ。これ以上子どもを犠牲にしないでほしい。知事の決済と判断で補助金は切れられたので、知事の考えを改めてほしいと何度も来ている。子どもに関わることを最優先に対応するのがあなた方の仕事のはずだ」と怒りをぶつけながら再開を強く要望した。正午から始まった要請は約4時間に及んだ。
今日2日は県知事が補助金の留保を決めた神奈川県庁に対し、神奈川朝鮮高級学校の高3生徒が支給再開を求め、要望に訪れる予定だ。
他にも、三重県、茨城県などで補助金停止、留保が続いている。
2010年春に日本政府が朝鮮高校だけを就学支援金の対象から外し、さらに昨2016年3月29日には馳浩・文部科学大臣が、補助金を支給している都道府県に対し、補助金自粛を求める「通知」なるものを出した。政府がお墨付きを与えたことで、自治体の姿勢が後退している。
この問題に取り組む田中宏・一橋大学名誉教授は、補助金支給再開を求め、2月24日に茨城県知事宛てにに手紙を出した。ご本人からいただいたものをこのブログでも紹介したい。(瑛)
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茨城県知事 橋本昌様
連日のご公務、ご苦労様です。(略)
去る2月21日の新聞報道により、「知事は、20日の定例会見で、茨城朝鮮初中高級学校(水戸市)に支給してきた運営補助金を、2017年度当初予算に計上しないと明らかにした」ことを知り、驚いて筆を執りました。
1.慰霊塔と朝鮮学校は、未来への”双子の財産”
かつて朝鮮は日本の植民地とされ、朝鮮人は、「帝国臣民」として日本への渡航を余儀なくされ、戦争末期には徴用により、労働現場で苦役を強いられ、生命を奪われたものも少なくありません。茨城県の日立鉱山や常盤南部炭田などに、多くの朝鮮人が投入されました。
私も訪ねたことがありますが、日立平和台霊園にある「茨城県朝鮮人慰霊塔」はその一つの証しです(近くに中国人の碑も)。また、同・本山寺にも「朝鮮人慰霊碑」があるそうです(「中国人慰霊碑」も)。こうした歴史を踏まえつつ、どのように未来を切り拓くかが、茨城県にとって、そして日本にとっても、大切なことではないでしょうか。
終戦時、200万を超える朝鮮人が日本にいたとされますが、帰っても住む家も、耕す田畑もない人など約60万人が、日本に残ることになったようです。在日朝鮮人が、いち早く取り組んだのは、朝鮮語も知らない子どもたちに民族の言葉、歴史、文化を教えるべく、自力で「寺小屋」のようなものを作ったことです。茨城県でも、関本、谷田部、下館、土浦、北条などに作られ、それらが今日の朝鮮学校に引き継がれたのです。
平和台霊園にある「慰霊塔」と水戸市にある「茨城朝鮮初中高級学校」は、未来への”双子の遺産”と言うことができるのではないでしょうか。
2.県の監査報告とも矛盾、許されない”他事考慮”に当たる
県の「准学校法人立外国人学校運営費補助金」の「目的」には、「日本の学校教育に類する教育を行っている茨城朝鮮初中高級学校の教育条件の維持及び向上並びに在学する児童生徒に係わる修学上の経済的負担の軽減を図る」とあります。そして、平成27(2015)年度の県監査委員による『行政監査報告書』でも、同補助金について、監査の結果「措置を求める事項なし」との判定が下されています。因みに、そこには「開始年度:昭56(1981)、終了年度:未定」と記されており、補助金は永続的なものと見なされています。
外国人の子どもが日本の公立小・中学校日本の公立小・中学校に就学を希望すれば、日本人同様に受け入れ、授業料も徴収せず、教科書も無償で配布されます。私立学校に就学すれば、計算上その分だけ公的負担が削減され、それが補助金交付の根拠となります。
今次報道によると、「(北朝鮮が)弾道ミサイルを発射するなど日本の安全を脅かす行為が続いている…」がその理由とされています。もしそうだとすれば、県が自ら決めた補助金交付の目的とは全く関係のない政治外交問題を持ち込む、文字通りの”他事考慮”に該当し、行政が厳に慎まねばならないことではないでしょうか。
3.拉致問題など政治外交問題と、教育の混同は許されない
北朝鮮との関係では、2002年9月、小泉純一郎首相が訪朝し、金正日総書記との間で「日朝平壌宣言」が調印されました。しかし、「宣言」が持つ本来の意義は、いつしか脇に押しやられ、専ら「拉致問題」に収斂するかのような現象が生まれ、「北朝鮮バッシング」が吹き荒れることになります。
あまりの事態に、法務省人権擁護局でさえ、「日朝首脳会談で拉致事件問題が伝えられたことなどを契機として、朝鮮学校や在日朝鮮人などへのいやがらせ、脅迫、暴行などの事案の発生が報じられていますが、これは人権擁護上見過ごせない行為です」との「人権啓発チラシ」を撒かざるを得なかったのです。
拉致被害者の横田めぐみさんのご両親も、「拉致問題があるから朝鮮学校を無償化から外すとか、補助金の対象から外すというのは、それは筋違い」と発言されています(『週刊金曜日』2012年6月15日)。
拉致被害者の兄・蓮池透さんも、「高校無償化政策から朝鮮学校を除外したり、…これは拉致問題とは関係ない”八つ当たり”です」と発言しています(『週刊朝日』2013年3月22日)。
「朝鮮人、ひとり残らず日本から叩き出せ!」「朝鮮学校、スパイ養成所!」などのヘイトスピーチが吹き荒れるなか、朝鮮学校に学ぶ幼い子どもたちの発する素朴な疑問、「朝鮮人って悪いことなん」、「朝鮮学校で勉強しちゃいけないの」に、私たちはどう答えてやればいいのでしょう。知事は、どうお応えになりますか。(略)
4.国連勧告に反して、補助金の「維持」ではなく、「廃止」?
第二次大戦後に発足した国際連合は、1948年12月、「世界人権宣言」を採択し、その理念を実現するべく、数々の人権条約を制定してきました。その第一号となったのは1965年12月採択の人種差別撤廃条約で、その前文には「国際連合が植民地主義並びにこれに伴う隔離及び差別のあらゆる慣行を非難してきたこと…を考慮し」とあります。国連は在日朝鮮人差別もその一つである植民地主義に伴う問題をどう克服するかが、戦後の最初の大きな共通課題であると認識したのです。
日本が人種差別撤廃条約を批准するのは遠く、採択から30年も経つ1996年1月にようやく発効。しかし、それを担保するための人種差別禁止法の制定を国連からたびたび求められながらも放置してきました。
そして、2009年12月、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」と称する者たちが、京都朝鮮学校を襲撃するという卑劣な事件を起こしたのです(幸い、刑事では有罪判決が下され、民事でも高額賠償を命じ、差別街宣を禁止)。
国連人権機関では、かつての女生徒の制服・チマチョゴリ切り裂き事件(今は通学時の着用は取り止め)などから、日本にある朝鮮学校に強い関心を持ち続けています。人種差別撤廃委員会は、2014年9月、日本政府報告の審査後「最終見解」で、「(パラグラフ19)委員会は、締約国〔日本〕に対し、その立場を修正し、朝鮮学校に対して高等学校等就学支援金制度による利益が適切に享受されることを認め、地方自治体に朝鮮学校に対する補助金の提供の再開あるいは維持を要請すること」(外務省訳)とあります。
日本政府は、国連でも「朝鮮学校は朝鮮総連と密接な関係にあり、朝鮮総連は北朝鮮と密接な関係にあり…」と釈明しましたが、通用しなかったのです。国連は、朝鮮学校の問題を、「教育を受ける権利」あるいは「朝鮮人差別」の問題と見ているのです。国連は、一方で北朝鮮に制裁などを科していますが、日本の朝鮮学校差別と制裁とを、はっきりと峻別しているのです。
前述の最終見解には、さらに「(パラグラフ33)次回の定期報告において、それらを実施するためにとられた具体的施策に関する詳細な情報を提供すること」とあります。茨城県が国連勧告に反して、補助金の「維持」どころか「廃止」したことを、次回の定期報告が盛り込むことになるのでしょう。茨城県の名誉のためにも、そして、日本の名誉のためにも、再考を切に要望いたします。
私の願いは、朝鮮学校の子どもたちに笑顔を、の一語につきます。何とぞ真意お汲み取り頂き、朗報をお待ちします。
2017年2月24日 田中宏