葬儀社の取材で見た、人のつながり
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5月号では在日同胞の葬儀について特集を組んだ。
この特集関連で私もいくつか取材をしたが、とても印象深かったのが、地域の在日同胞がよく利用するという葬儀社のスタッフの話だ。
お話を伺ったお二人は在日同胞の利用者を20年以上担当してきた方々で、私が思っていた以上に同胞について詳しかった。
葬儀をあげる前に必ずご家族とお会いして打ち合わせをする。同胞の自宅を伺ったり、焼肉店を営んでいればお店に足を運んだり…。
すると、同胞が必ず「ご飯は食べた? お腹すいたでしょ、食べていきなさい!!」と食事を出してくれるんだとか。「いつも気にかけてくれて、大事にされて、本当にたくさんお世話になりました」。
「毎回のように感じるのは、在日の方々は先祖を敬う気持ち、親や家族を大事にする気持ちが本当に強いということ。決して日本人にそれが希薄というはけではないが、在日の方々にはまた少し違ったものがある。家族だけでなく地域の在日同士のつながりも強く、葬儀も支部や分会、女性同盟などが総動員」
初めて在日同胞の葬儀に携わったときは、朝鮮の風習や同胞社会のネットワークについて知り、驚いたそう。
取材中にびっくりしたのは、会話の中で朝鮮語の単語がポンポン出てくるということ。それも在日同胞たちが日頃よく使う単語だ。アボジ、オモニなどの家族の呼び方やちょっとしたときに在日が使う生活用語、その他にチブ(支部)、プネ(分会)、ウィウォンジャン(委員長)、ニョメン(女性同盟)、サンゴンフェ(商工会)などなど。
ふとした時に朝鮮語を使うと、「○○さん、チョソンサラム(朝鮮人)だったの!?」と同胞に言われ、「いえいえ、イルボンサラム(日本人)です」と返したり。
同胞の会話を聞いているうちに少しずつ意味が分かるようになり、簡単な単語であれば朝鮮語で言えるようになったそうだ。「とにかくまずは、みなさんと意思疎通を図りたい。そうしないといいお葬式も出来ない。会話で朝鮮語を交えて話すと、親族も親しみを感じてくれる。そうして少しでも安心させてあげたい」。
過去には、朝鮮学校支援で売られるキムチの購入に協力し、朝鮮学校のフェスタで葬儀社の名前でかき氷を販売することもあった。どれも会社と団体の関係を超えた、人と人との絆があってのことだ。
長年同胞たちと付き合いがあるため、顔も広い。管轄していた地域での在日同胞の葬儀があれば、参列者の8割の方とは顔見知りだという。
20年の間に、親交があった本部活動家や在日同胞を見送る機会も多かった。「親しくしていた方が亡くなる現実はすごくつらい。自分の身内が亡くなったかのような寂しさがある」。
少し涙をこらえて、たくさんのことを思い返しながら話すようすが印象的だった。
業者として葬儀に携わるが、知り合いの葬儀でもある。「見送る人」の1人でもあるのだと感じた。(S)