広島無償化裁判の地裁判決に接して
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広島朝鮮学園と卒業生ら110人が原告となり、国を相手取って就学支援金不支給決定に対する取り消しと適用の義務づけ、本来支払われていたはずの支援金の支払いなどを求めた裁判(以下、広島無償化裁判)の判決が一昨日の19日、広島地方裁判所で言い渡された。
結果は、知ってのとおり、原告側の全面敗訴。
地裁は、規程13条(適正な学校運営)を基準に朝鮮学園を不指定にすることは無償化法の委任の範囲内であり、平等権を定めた憲法14条に違反しない、広島朝鮮初中高級学校が規程13条に適合するものとは認めるに至らないとの文部科学大臣の判断に裁量の範囲の逸脱、濫用が認められるとはいえない、規程13条を理由とした不指定処分は違法ではないなどとして、原告側の主張を退けた。
判決言い渡しを現地で取材した(S)さんのレポートが、すでに昨日のエントリでアップされている。
http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/7daaa6ca82d77a760798f256f8a728de
また、さらに詳しい記事が「朝鮮新報」電子版に上がっている。
http://chosonsinbo.com/jp/2017/07/20170720ryd/
敗訴の報に接して、心の中で絶望に近い感情がうずまいている。この国の司法に過剰な期待は抱いていないつもりだったが、なぜ朝鮮学校が制度から排除されたのか、この間の経緯を知っている人間からすると、行政の無茶苦茶極まりないふるまいに対して、いくらなんでも司法はまっとうな判断を下すだろうという淡い期待は心のどこかにあった。
地裁判決の論理の粗雑さは明らかだ。いわく、「北朝鮮や朝鮮総連の影響力が否定できず、適正な学校運営がされているか十分な確証が得られない」「学校は朝鮮総連の強力な指導の下にあり、就学支援金を支給したとしても授業料に充てられない懸念がある」。お金が本来の目的に使われなかったので指定を取り消すのならわかるが、そのおそれがあるのではなから制度の対象に指定しない、こんなバカな話があるだろうか(その「懸念」の根拠も充分なものとはいえない)。「全国の高校生の保護者の身元調査をして、ギャンブル依存症とかで借金がある親は『就学支援金を借金の返済に使う恐れがあるから給付しない』と言うのか? 制度の受益者は生徒だ。仮に過去の学校法人に問題があったとしても、それが今の生徒の権利を剥奪する理由にはならないはず」。SNSで接した投稿の一文だが、まさにその通りだろう。
「朝鮮学校外し」ありき。朝鮮学校を制度から排除するという結論が先にあった。理由は後付け。いわゆる「後出しジャンケン」だ。そんな行政の横暴を今回、司法が追認した。「北朝鮮や朝鮮総聯とつながる学校だからダメ」というきわめて政治的かつ恣意的、差別的な判断に司法が「お墨付き」を与えたのだ。国側の主張をそのままなぞるだけの司法の存在意義とは一体何なのか。
この問題は国連の人権機関や条約審査委員会でもたびたび取り上げられ、勧告も出されてきたが、「本件不指定処分に、その他の違法や憲法や条約に違反する点は認められない」ときたらもはや笑うしかない。
『世界』8月号に『司法は「朝鮮学校いじめ」をただせるか』と題した田中宏・一橋大学名誉教授による論考が掲載されている。朝鮮学校をめぐるこれまでのさまざまな訴訟を振り返りながら、このたびの高校無償化訴訟で何が問われているのかがわかりやすく整理されている。一読を勧めたい。
結びの一文を以下に引用する。「一方で、私人によるヘイトスピーチにさらされ、他方で、公的機関による高校無償化からの除外、補助金カットに直面している朝鮮学校の子供たちを前に、日本の司法はいかなるメッセージを送るのだろうか」。(相)