大阪無償化裁判勝訴、判決のポイントは
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既報のように、さる7月28日、大阪地方裁判所で、大阪朝鮮高級学校への「高校授業料無償化法」(以下、無償化法)の適用などを求める裁判の判決公判があり、原告・大阪朝鮮学園側の全面勝訴の判決が下された。
すでに当日28日夕方に更新した本ブログのエントリで、勝訴判決の初歩的な事実関係について報じているが、それに続く今回は、原告側弁護団の報告などに基づいて、判決の内容について見ていきたい。
この裁判で原告・朝鮮学園側は、大きく、①国が朝鮮学校を「無償化法」施行規則第1条第1項第2号ハ(規定ハ)に基づく指定をしなかった処分を取り消すこと(取り消し訴訟)、②国が大阪朝高を無償化法の対象に指定すること(義務付け訴訟)の2点を請求していた。結果は、ご存知のとおり原告の請求が①、②ともに認められた。
争点①:規定ハ削除の違法性
規定ハとは、いわゆる「外国人学校」のうち、どのような学校が「無償化法」の対象となるのかを定めた規定を指す。詳細な説明は割愛するが、朝鮮学校は(イ)(ロ)(ハ)のうち(ハ)に該当するかどうかを文科省が審査して結論を出すことになっていた。結果的に国側は、朝鮮学校側による申請→文科省による審査まで進んだ段階で、「後出しジャンケン」のように、朝鮮学校を無償化の対象に指定する根拠となる規定ハを削除して不指定にしたわけだが、裁判ではこの規定ハ削除が違法かどうかが争われたのだ。
判決は、どのような学校が無償化法に適するのかは教育上の観点から専門的、技術的検討が必要で、これを定めるうえで文部科学大臣に一定の裁量権はある、しかしそれはあくまで「法の委任の範囲を逸脱しない範囲」で許容されるとした。ここでいう「委任の範囲」とは、無償化法の趣旨である「後期中等教育の機会均等」を指す。では、ハの削除は果たして「教育の機会均等」という法の趣旨から逸脱するものなのか否か―。
判決は、▼民主党政権時代、後の文部科学大臣である自民党の下村博文議員の、「拉致問題解決のために北朝鮮に経済制裁を課している中で朝鮮学校無償化は誤ったメッセージを送ることになる」という発言、▼下村文科大臣就任後、拉致問題で進展がないこと、朝鮮学校と朝鮮総聯との密接な関係などを理由に規定ハを削除したこと、▼外交上の配慮によって判断しないという民主党政権時代の統一見解を廃止したことなどを挙げ、
国が教育の機会均等の確保とは無関係の外交的・政治的判断で朝鮮高校を支給法の対象から除外するために規定ハを削除したと認定し、これは委任の趣旨を逸脱しているので違法・無効だと結論づけた。
争点②朝鮮学校の規程13条適合性
「後出しジャンケン」のように規定ハを削除して不指定にしたことが裁判で不利になると思ったのか、国側が不指定の理由として持ち出したのが、朝鮮高校が「規程13条に適合すると認めるに至らなかった」というものだ。
規程13条では、就学支援金を生徒の授業料に確実に充てることなど法令に基づく適正な学校運営が行われることを定めており、国側は、朝鮮高級学校がこの13条に適合すると認められなかったので不指定処分を下したと主張している。
今回の判決は、この規程自体は法の委任の趣旨を逸脱するものではなく、上記の「法令」には「不当な支配」からの脱却を定めた教育基本法第16条1項も含まれるとした(これは被告側の主張を採用したもので、原告側としては法令に「不当な支配」を含めることこそ不当であると主張していた)。となると、大阪朝高がこの規程13条に適合するかどうかがポイントになる。裁判所は、大阪朝鮮学園は①私立学校法に基づき、財政目録や財務諸表が作成されている、②理事会も開催されている、②大阪府の随時立ち入り検査の際に法令違反を理由とする行政処分を受けていない、という3点をもって13条適合性の立証はとりあえずなされているので、ほかに「規程13条適合性に疑念を生じさせる特段の事情がない限り、13条適合性が認められる」とした。
では、特段の事情があったのかどうか。国側は産経新聞の報道や公安調査庁の資料などをもとに、特段の事情として朝鮮学校と朝鮮総聯との関係や理事会の議事録が偽造されているなどを持ち出したが、判決は、「在日朝鮮人の民族教育を行う朝鮮高級学校に在日朝鮮人の団体である朝鮮総聯などが一定を援助をすること自体が不自然であるということはできない」などとし、国側が持ち出したさまざまな事例を「事実として確認されていない」「裏づけがない」などと退けた。「特段の事情」に関する立証が被告側からなされていないので、特段の事情があるということはできない→朝鮮高級学校は規程13条をみたす→文科大臣の判断は裁量権の逸脱・濫用であり、不指定処分は取り消しを免れない、と認定。さらに進んで、朝鮮高級学校は無償化法の対象に指定されるべきという義務付けの請求も認めた。
判決は次のように指摘している。無償化法は単なる恩恵ではなく、私立高等学校の生徒たちの受給権として規定している。「不当な支配」の判断が大臣の裁量にゆだねられるべきものとすることは、教育に対する行政権力の過度の介入を容認することになりかねない。「不当な支配」のあるなしの判断については、大臣の裁量権が認められると解することはできない。
弁護団はこの部分を画期的な判断と評価している。
丹羽雅雄弁護団長が報告集会で語ったように、今回の判決では子どもたちの教育を受ける権利、国際人権法に認められた母語で普通教育を受け、アイデンティティを育む権利を差別なく平等に保障すべきという原告側の主張は判決文には反映されなかった。しかし、戦後の在日朝鮮人の民族教育の歴史的経緯が認定されている。弁護団が判決で画期的だと評価するもう一つは以下の部分だ。
朝鮮総連は第2次世界大戦後のわが国における在日朝鮮人の自主的民族教育がさまざまな困難に遭遇する中、在日朝鮮人の民族教育の実施を目的のひとつとして結成され、朝鮮学校の建設や認可手続きなどを進めてきた。朝鮮学校は総連の協力の下、自主的民族的教育施設として発展してきたということができるのであって、このような歴史的事情等に照らせば、朝鮮総連が朝鮮学校の教育活動または学校運営に何らかの関わりを有するとしても、両者の関係がわが国における在日朝鮮人の民族教育の維持、発展を目的とした協力関係にあるという可能性は否定できない。両者の関係が適正を欠くものとただちに推認することはできない。
朝鮮高級学校は、在日朝鮮人子女に対し朝鮮人としての民族教育を行うことを目的の一つとする学校法人であるところ、母国語と母国の歴史および文化についての教育は民族教育にとって重要な意義を有し、民族的自覚および民族的自尊心を醸成するうえで基本的な教育というべきである。そうすると、朝鮮高級学校が朝鮮語による授業を行い、北朝鮮の視座から歴史的・社会的・地理的事象を教えるとともに北朝鮮の国家理念を肯定的に評価することも、朝鮮高級学校の上記教育目的それ自体には沿うものということができ、朝鮮総連からの不当な支配により自主性を失い、このような教育を余儀なくされているとはただちに認めがたい。
当たり前のことが当たり前に認められた結果。まっとうに法律を解釈すれば当然、今回のような判決になる。しかし、その当たり前が当たり前にならないのが今の日本の状況だ。覚悟を決めたような判決文を書いた裁判官には敬意を表したい。
今回の起死回生ともいえる判決を下したのは裁判官だが、その裁判官の心を動かし、判決に魂を吹き込んだのは当事者、支援者、弁護団の不撓不屈のたたかいだった。(相)