林えいだいさんが亡くなった
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記録作家の林えいだいさんが9月1日、がんで亡くなった。83歳だった。
福岡県筑豊地方を拠点に戦時中の朝鮮人強制連行や戦後のBC級戦犯問題、公害問題などを徹底して取材し、その成果を書物に著してきた。50年近くにおよぶ執筆活動で著した本は『海峡の女たちー関門港沖仲仕の社会史』、『銃殺命令 BC級戦犯の生と死』、『清算されない昭和 朝鮮人強制連行の記録』、『重爆特攻さくら弾機―日本陸軍の幻の航空作戦』など50冊以上にわたる。
林さんの経歴や業績などについては、全国紙、地元紙など多くのメディアが訃報を出しているので、それを見ていただきたい。
本誌イオの3月号で、林さんを追ったドキュメンタリー映画『抗い 記録作家 林えいだい』(監督=西嶋真司、2016年制作)の映画評を書いた。
映画の中でも語られているが、幼いころ、父親が特高警察に連行され、拷問を受けたことが原因で死亡している。炭鉱から逃げてきた朝鮮人を助けたことが理由だった。この出来事が後にジャーナリストを志す原点となったという。
身体をガンに侵された林さんが、抗がん剤の副作用でうまく動かない指にセロテープで万年筆を固定しながら執筆する場面がある。月並みだが、ジャーナリストとしての鬼気迫る執念に圧倒された。
林さんが取材しなければ埋もれていた日本の近現代史の闇の歴史がたくさんあるだろう。生前、ご本人とお会いしたことはない。もっぱら著作を通じてその業績に接してきた。私などが林さんについて何か語るのはおこがましいのだが、その活動にはただただ尊敬の念しかない。
病と闘いながら最期までペンを握り続けた林さん。関東大震災時の朝鮮人虐殺という厳然たる加害の歴史すら葬り去られようとしている現状に、病床で何を思われたのだろうか。
こんな時代だからこそ、もっともっと活躍していただきたかった。お亡くなりになられたのが残念でならない。
以下に、イオ3月号に掲載された上記映画の紹介記事を転載する。
林えいだいさんのご冥福をお祈りいたします。
名もなき民の声なき声を聞く
『抗い 記録作家 林えいだい』
監督:西嶋真司/プロデューサー:川井田博幸、倉富清文/協力プロデューサー:増永研一/撮影:青木周作、両角竜太郎、鶴田新子/出演:林えいだい他/朗読:田中泯/2016年/日本/カラー/100分/ドキュメンタリー/制作・配給:グループ現代/製作・著作:RKB毎日放送/シアター・イメージフォーラムにて2月11日公開、福岡・KBCシネマ、大阪・第七藝術劇場、名古屋・シネマスコーレ今春公開決定
戦争の悲劇や朝鮮人強制労働など歴史の闇に葬られそうな事実を徹底した聞き取り調査によって明るみに出す記録作家・林えいだい(83)を追ったドキュメンタリー。
本作の主な舞台は、林が生まれ育ち、現在も暮らす福岡県筑豊地域だ。明治以降、炭鉱開発で栄えたこの地には今も「アリラン峠」と呼ばれる場所がある。かつて日本に徴用された朝鮮人たちが炭鉱に向かった道のそばに小さな石が人知れず置かれている。過酷な労働や差別に苦しめられた人々の墓碑銘すらない墓石―。林はそんな場所を丹念に訪ね、埋もれた歴史の事実を掘り起こしていく。
神主だった林の父親は炭鉱から脱走した朝鮮人たちを匿ったことで警察に拷問され、それが原因で命を落とした。本作は林の反戦・反権力を貫く生き方の原点となったこの出来事も取り上げている。
監督は、RKB毎日放送のディレクター・西嶋真司。林に密着するカメラは彼の徹底した現場主義と名もなき民の声なき声を聞く姿勢を浮き彫りにしていく。終盤には旧日本軍特攻作戦の闇に挑む姿を追う。1945年5月23日、沖縄に出撃予定だった「さくら弾機重爆特攻機」が炎に包まれた。軍は当時19歳の朝鮮人隊員・山本辰雄を放火の罪で処刑するが、林はこれを民族差別による冤罪とみて真相に迫ろうとする。
林は言う。「歴史の教訓に学ばない民族は自滅の道を歩むしかない」と。彼の目に現在の日本はどのように映っているのか。
林の身体はガンに侵されている。作中には、抗がん剤の副作用でうまく動かない指にセロテープで万年筆を固定しながら執筆する場面も登場する。なぜ書き続けるのか、なぜ抗い続けるのか―。「権力に棄てられた民、忘れられた民の姿を記録していくことが私の使命である」。林は西嶋の問いにこう答えている。
反戦・平和への希求を、権力への抗いをペンとカメラで刻み続ける姿に心を揺さぶられる。本作を通じて林の仕事にもっと光が当たることを願う。
(相)