祖国とチャンダン【平壌発19】
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7月20日から8月12日まで、通信受講生代表団が朝鮮に滞在しました。通信受講とは、日本各地にある朝鮮学校の高級部生徒たちが、民族芸術を本場・朝鮮で学ぶ制度。受講を希望し審査に合格した生徒らは、高級部1年からの3年間、毎年夏に朝鮮を訪れて専攻分野を学びます。今年で26回目を迎えました。
受講生は舞踊組と音楽組(器楽・声楽)に分かれて、それぞれ指導を受けます。人民芸術家や功勲芸術家など、朝鮮国内の人々も羨むような一流の講師陣が特別に授業を担当。
中には、朝鮮の有名な大マスゲーム「アリラン」で、何万人もの観客を前に独唱を披露した声楽家からマンツーマン指導を受けているという生徒もいました。声楽を専攻する文龍大さん(大阪朝高・高2、音楽組)は、「自分なんかに…もったいない」と、恐れ多そうに笑いながらも、それについていこうと毎日必死に練習していました。
8月9日には、金元均名称音楽綜合大学で卒業試験が行われ、10人が作品を発表しました。受講生たちは2年生の課程が終わる際に担当講師と相談して卒業作品を決め、次の夏まで1年間、日本で練習を重ねます。卒業作品は3年間の集大成であると同時に、先生との「約束の作品」でもあるのです。
<舞踊組>
<音楽組>
※写真は朝鮮新報社平壌支局
本番、のびのびと作品を披露する生徒たちの姿はとてもかっこよかったです。
神戸朝高の韓潤玉さん(舞踊組)は、「これまでたくさん教えてくれた先生への感謝を込めて精いっぱい踊った」と話していました。
私自身、取材する前は通信受講制度について具体的に知らなかったのですが、実際に朝鮮で学ぶ生徒たちの姿を見ながら、とても貴重な時間だなと感じました。
ある日は、音楽組の高3生徒たちがチャンダンの試験を受けている時にお邪魔しました(冒頭の写真)。一人ずつ、課題のリズムを講師の前で披露します。静かな教室に、一生懸命なチャンダンの音だけが響きます。生徒たちは自分で民謡も歌いながら、そこにチャンダンを合わせます。
不意に、ジーンとこみ上げるものがありました。うまく説明できませんが、(この子たちにとって、いま流れる1秒1秒がものすごく大切な瞬間として記憶されるんだろうな)と思いました。
受講生の一人、金詩温さん(大阪朝高・高3、音楽組)は、中1の時に初めて訪朝して迎春公演(ソルマジ)でコウムチョッテという民族楽器を演奏したことがあります。その時の経験を振り返って「『祖国の空気』というものを肌で感じ、見るものすべてが学びにつながった。本物の民族音楽のリズム、味わいを体感し、同じ楽器を吹いているのに日本では感じたことのない感覚が湧きあがってショックを受けた」と話していました。
私がチャンダンの試験を見ながら感じた「ジーン」というのは、そういう「日本では感じたことのない感覚」を、まさに目の前で味わっている生徒たちに対する憧憬のようなものだったのかもしれません。言葉では表現しきれない、経験した本人だけが実感することのできる、その場の緊張も気温も静けさも全て含まれた「祖国の空気」。(朝鮮でチャンダンを叩く、これだけでもすごく意味があるんだな)―私は傍らで、それを想像することしかできませんでした。(理)