朝高生の思い届かず―東京無償化裁判地裁判決
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2014年2月、62人の東京朝鮮中高級学校生が無償化法の適用を求め、一人あたり10万円の国家賠償を求めた東京無償化裁判の判決が9月13日、東京地裁で言い渡され、原告の請求が棄却された。
約1500人が傍聴券を求めて並んだ同地裁の大法廷では、田中一彦裁判長が「原告らの請求をいずれも棄却する」「訴訟費用は原告らの負担とする」と2つの判決文を読み上げるのみ、傍聴席の生徒たちに目を向けることもなく、くるりと背を向けて法廷から立ち去った。
原告側弁護団は、「就学支援金の受給資格は生徒にある」として、被告・国が朝鮮高校を外すために規定ハを削除したことは政治的外交的理由で「違法だ」と主張。しかし、同地裁は、規定ハの削除も、不指定処分も「文科大臣の裁量の範囲からの逸脱、乱用があるものとは認められない」として、被告国の主張を全面的に認め、不指定処分を「適法」とした。
●喜田村弁護団長「文科大臣に無制限の自由裁量を与えた不当判決」
15時からは、司法記者クラブで弁護団や原告による記者会見が行われ、原告側の喜田村洋一弁護団長は、「不当判決」だと主張。判決の問題点は、①規定ハの違法性を判断せず、②政治的外交的理由で排除した事実を認めず、③文科大臣の裁量を際限なく認めた―の3点にあると述べた。以下、発言を紹介する。
…この判決が言わなかったことが「何なのか」を見てほしい。文科省が規定ハをなくしてしまったことで、朝鮮高級学校は無償化の対象になりえないことになった。これは、高校で学びたいという意欲を持つすべての人に就学支援金を出すという無償化法の趣旨に反するもので、原告側はハの削除が違法だと主張したが、この部分について今日の東京地裁判決は「判断する必要はない」と削った。この点は、法律と規則の関係という極めて法律的な問題で最高裁でも色んな判決が出ているが国は逃げた。これが判決の第1の特徴。
第2の特徴は、ハの削除、東京朝高の不指定がどういう「根拠」に基づいてなされたかということだ。この点については2012年12月の政権交代があった直後に当時の下村文科大臣が、朝鮮学校については、拉致問題の進展がないことや、朝鮮総聯と密接な関係にあることから、現時点の指定には国民の理解が得られず不指定の方向で手続きを進めたい、と言った。これを普通に判断すると、拉致問題あるいは総聯との関係を問題にして不指定にしたということなので、明らかに政治的外交的な配慮、あるいは政治的外交的な問題を考慮して不指定にした、と読めるわけだが、これについては、判決は「そうとは読めない」と言った。なぜ、文科大臣や安倍総理大臣の同趣旨の発言が政治的外交的配慮による不指定ではなかったのか、という説明がなされていない。これははっきりとした事実誤認だ。
また、国は「規程13条に適合すると認めるに至らなかった」という「狭い問題」を立てて、この判断をすることは違法じゃないと言った。なぜなら、文科大臣には広い裁量があるからで、審議会の意見など聞かなくてもいいし、日本の公安当局などが色々言っていることを信じたといっても不合理とは言えないという。
特徴的なのは、原告が通っていた東京朝鮮高級学校が指定されると、なぜ就学支援金が授業料に充当されないのか。その具体的な「おそれ」がまったく書かれていない。(広島で25年前にあったことをもって)ずっと昔はこういうことがあった、と強引に認めたざらっとした判決。なぜ東京朝高がダメなのかはまったく書かれていない。この点が大阪の判決と比べると顕著な特徴だ。大阪地裁は、朝鮮高校がダメだという理由はないので、不指定にした国が違法だと判断した。東京地裁判決は、朝鮮学校はみんな同じで、公安調査庁が色んなことを言っているからダメといっているようなもの。これは民族差別そのものだ。
規定ハ削除の違法性を判断しなかった点、明白な事実の誤り、規程解釈の誤り、文科大臣にほとんど無制限の自由裁量を与えたということで、最近の行政法についての裁判所の近時の判例の傾向にも反した誤った判断だ。当然、控訴ということなる。(以上、記者会見での発言)
●原告、オモニたち
この裁判で国側は、「規程13条」、教育基本法の「不当な支配」を持ち出し、不指定になった責任は朝鮮学校側にあると強弁してきた。しかし、それは事実ではなく、文科省が政治的外交的理由で朝鮮高校を排除したことを暴いたのが東京弁護団だった。東京弁護団は5ヵ所で行っている無償化裁判のなかで唯一、規定ハを削除した文科省職員の証人尋問を実現(第12回口頭弁論、16年12月13日)。文科省の内部文書の開示を請求し、開示された文書を通じて、文科省が拉致問題を口実にして朝高排除のために規定ハを削除したことを明らかにした(第9回口頭弁論、16年3月2日)。
記者会見の席で金舜植弁護士は、「負けるとしても、事実を前提に判断するものだと思ったが、裁判所は完全に応答してくれなかった。判断を逃げ、曖昧模糊とした抽象的な理由で原告を負かせた。読んで愕然とした。原告は学生で、生徒たちの権利だ。子どもたちが(敗訴判決を)聞いた瞬間の思いを想像すると悔しい。裁判所に対する絶望を感じた」と悔しさをぶつけていた。
原告の2人も記者会見に立った。日本の大学に通う女子学生は、「悔しい思いで一杯。この裁判は、生徒の精神的苦痛に対する損害賠償請求だったが、この判決でさらに原告や後輩たちが辛い思いをすると思うと胸が張り裂けそう」、朝大に進学した男子学生は、「これから朝鮮人として育つ子どもの未来をすべて奪った判決に憤りを隠せない」と語っていた。
同席した保護者のオモニは、「無償化制度が始まってからは、朝鮮と名のつくものは存在すらも問題視されてきた。怒りだけです。教育の現場に政治を持ち込まないで。青春を謳歌してクラブ活動をさせて。それだけが願いです。これからも諦めません。原告とともに高校無償化適用のため、がんばっていきます」と声を振り絞った。
●怒号と悲鳴、「勝つまでたたかう」
法廷の外は、判決の結果を今か今かと待ち続けていた1600人の朝鮮学校生や保護者、日本市民たちであふれかえっていた。不当判決の結果が伝わると地裁前では、「不当判決反対!」「ふざけるな!」と怒声がわき、泣き崩れる学生もいた。茫然と立ち尽くすオモニたちの姿も見える。
無償化実現を目指して発足した東京朝高オモニ会初代会長の朴史鈴さんは、信じられないといった表情だったが、毅然と語った。「悔しいとかじゃない。司法も子どもたちを差別し続けた日本政府と同じだったのかという怒りだけ。泣いている場合じゃない。新たな闘いのために頑張らなければ」。地裁前には何重にも人の波が重なり、「声よ 集まれ 歌となれ」の歌声が地裁の強固な建物にこだまするように鳴り響いていた。
今年に入って、日本各地の朝鮮学校行脚を続けてきた「高校無償化からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」の長谷川和男さんは、「負けてたまるか。私たちは絶対に負けない。負けない気持ちがある限り負けない。次の闘いを準備し、勝つことで全国の朝鮮学校の子どもたちを励まし、教育を続けている教員たちを励まし、子どもたちが胸を張って生きていくことを願うアボジ、オモニたちの思いに応えていく」と地裁に向かってメガホンを強く握っていた。
広島での敗訴、続く大阪での勝訴―。
東京裁判を闘ってきた人たちが、この日の地裁判決にかけた思いは、「東京で勝って流れを変える」ことだった。
しかし、東京地裁の判決は、広島のヘイト判決に並ぶ、国の主張を固めるためだけに書いた、「結論も論理も誤った判決」(喜田村団長)。三権分立で人権を確立せんとする、裁判官のプライドのかけらも見えない朝鮮学校への差別をむき出しにしたヘイト判決に、原告はもちろん、保護者や関係者は怒りに体を震わせていた。
「勝利の瞬間を子どもたちに見せたい」と全校生を引き連れてきた東京朝高の愼吉雄校長は、判決を聞いた後、席から立ちあがることができなかったという。
「本校の卒業生に傷を負わせたうえ、塩を塗った判決。飢えそうな人に肉を見せつけて、そして取りあげる。みにくく残酷としか言いようがない。日本に学ぶ高校レベルの生徒は300万人。そのうち、朝鮮高校生は2000人に満たない。これを民族差別といわずに何というのでしょうか」
夜、日本教育会館で行われた決起集会には、1100人が詰めかけた。九州、広島、大阪、愛知からも弁護団や原告の同胞や日本市民が席をともにし、発言が続くたびに割れるような拍手が会場に鳴り響く。参加者は、子どもたちの未来のため、勝利の日まで闘うという「大きな決意」を固めていた。(瑛)
※関連資料
●東京朝鮮高校生「高校無償化」国賠訴訟弁護団声明●
2017年9月13日
本日、東京地方裁判所民事第28部は、東京朝鮮中高級学校の高級部に在籍していた生徒62名(現在は卒業生)が就学支援金不支給を理由として提起した国家賠償請求訴訟(以下「本訴訟」といいます。)について、判決(以下、「本判決」といいます。)を言い渡しました。裁判所は、訴訟における被告国側の主張を丸呑みし、原告側の請求を棄却しました。
本判決は、以下に述べるとおり、重大な誤りを多数含んでいます。
第一に、本判決は、本訴訟の重要な争点について判断を回避しています。すなわち、本判決は、「規定ハの削除が無償化法による委任の趣旨を逸脱したものであり無効であるから、規定ハの削除による不指定処分は違法である」との原告の主張について判断を回避しています。しかし、審理の過程で明らかになった文科省の決裁文書には「規則1条1項2号ハの規定の削除に伴う朝鮮高級学校の不指定について」と明記されており、本件不指定処分は、規定ハが削除されたことに基づくものであることは明らかであり、規定ハの削除の違法性について判断を回避した本判決は明らかに不当です。
次に、本判決は、不指定処分の理由について明白な事実誤認を犯しています。下村文部科学大臣(当時)が閣僚懇談会等で明言したとおり、朝鮮学校に対する不指定は、「拉致問題に進展がないこと」等によって決められたものであり、これが政治的外交的配慮であることは明らかです。しかし、本判決は、本件不指定処分が政治的外交的理由によって決定されたものであることを認めませんでした。これは不指定処分の理由という最も重要な点について、明白な事実誤認を犯したものといわざるをえません。
最後に、本判決は、文科大臣が東京朝鮮学園を不指定とするにあたって同学園が規程13条に適合しない理由について個別的かつ具体的な事実を指摘して不指定とすることを要求せず、各地の朝鮮高級学校について抽象的に言われたことや、他の朝鮮学校についての過去の裁判所の判断等によって、「東京朝鮮学園について規程13条に適合すると認めるに足りない」との文科大臣の認定を合理的なものであると認定しました。これは、文科大臣にほとんど無制限の裁量を認めたものであり、行政法の解釈として明白に誤っています。
以上素描した限りにおいても、本判決は、結論においても論理においても明らかに誤った不当極まりないものです。
政府による誤った判断による差別を解消し、すべての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会を司法によって実現するという本訴訟の目的を達成するため、原告らは控訴し、引き続き差別の解消を強く求めていきます。私たち弁護団は、全国の朝鮮高校生らに対して差別なく就学支援金が支給される日まで、さらに努力を続ける所存です。以上
●正義が実現されるまで闘い抜く/東京朝鮮学園声明 ●
東京朝鮮学園は13日の東京無償化裁判の不当判決を受け、同日、声明を発表した。全文は以下のとおり。
東京地方裁判所は、我々の訴えを退ける驚くべき不当判決を言い渡しました。
本来、公平な判断により国家権力の過ちをただすべき司法が、行政権力の政治的意向や昨今の排外主義に盲従し、行政の違法行為と差別的措置を追認し、神聖な学習権を尊ぶことなく原告の訴えを退ける不当な判決を言い渡したことに、驚きと強い憤りを禁じえません。
私たちは、朝鮮学校の生徒たちを「高校無償化」制度から排除し、教育を受ける権利を侵害する日本政府の不条理な差別を絶対に許すことができず、勇敢にも原告となり立ち上がった生徒たちとともに、日本政府を相手どり2014年2月17日に賠償請求訴訟を提訴し、3年7カ月、14回に及ぶ口頭弁論を経て、本日の判決言渡しを迎えました。
青雲の志を胸に、輝ける未来を切り開こうと日々勉学に励むべき生徒たちが、大切な青春の日々を犠牲にしながら国を相手に裁判せざるを得なかったのは、朝鮮高校生たちの学ぶ権利が日本政府によって侵害されていること、朝鮮学校を無償化から除外したことが違法であることを明らかにするためには、司法の判断にすがるしかないほど、現在日本社会に排外主義が蔓延し歪んでしまっているからにほかなりません。
日本国憲法や国際人権規約等を待たずとも、すべての意思ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくるためにとした「無償化」法自体の本来の趣旨に立ち返り、正常な思考と最小限の遵法精神さえあれば誰の目にも明らかな日本政府による不法で不当な「朝鮮学校生徒いじめ」は当然批判され改善されると、私たちは信じ疑いませんでした。
不当なこの判決を、到底受け入れることができません。
この国がいう「すべての子どもたち」には、朝鮮学校に通う生徒は含まれていないのでしょうか。
日本では、「朝鮮」がつくものに対しては、三権の分立すらも機能しないのでしょうか。
この不当判決により、これまで「無償化」制度から差別的に除外されたまま卒業せざるを得なかった卒業生たちの心の傷がさらに深まってしまうのではないか、朝鮮学校で学んでいる多くの子どもたちの笑顔がまた奪われてしまうのではないかと深く憂慮します。
このような不当判決が、平和の祭典オリンピックを控えた東京において出されたことに唖然とするばかりか、ヘイトスピーチや排外主義といった時代錯誤的な動きをさらに助長して健全な社会発展を阻害してしまうのではないかと心配でなりません。
友好と親善を胸に共存共栄する明るい未来構築に禍根を残すような国の違法行為とこの恥ずべき不当判決を、私たちは絶対に認められません。
朝鮮学校は、朝鮮半島にルーツを持つ在日の子どもたちに母国語をはじめ民族の歴史や文化等を教えることにより、しっかりとしたアイデンティティーを胸に、日本の地域社会で共生共存しながら国際社会に貢献できるような人材を育成すべく、70年もの間、真摯に民族教育に取り組んできました。
朝鮮学校は、過去の不幸な時代に踏みにじられた人権と奪われた民族的尊厳を回復するため、1世の同胞たちが苦難を乗り越え創設し、2世・3世が継承し発展させてきた大切な民族教育の場であります。
地域に根ざした教育、多文化に対する相互理解と友好親善をめざし、日本学校や外国人学校とも多彩な交流を深めてまいりました。
朝鮮学校で学んだ10万人を超える卒業生たちは、日本や世界の多様な分野において活躍し、立派に社会貢献していると私たちは自負しております。
私たちは、このたびの不当判決にひるむことなく、今後とも民族教育の普遍的価値を実証し、民族教育を受ける権利は法的保護に値する正当な権利であるということを訴えていきたいとい考えています。
朝鮮学校に通う生徒たちは、日本で生まれ、これからも日本に永住していく子どもたちであり、何よりも朝鮮と日本の友好の懸け橋となる、私たちのかけがえのない大切な未来です。
私たちは、すべての子どもたちが平等な学習権を享受し心おきなく学び成長する社会を実現するため、また多文化を相互理解し共存共栄する社会建設に寄与すべく、今後とも民族教育活動に全力を注いでまいります。
私たちはこれからも、本学園の生徒、保護者と在日同胞の皆さまはもとより、弁護団の諸先生方、「東京朝鮮高校生の裁判を支援する会」や「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」の皆さまをはじめとする多くの日本人の方々、韓国の支援者の方々とともに、手を取り心をひとつにし、良心と正義が実現されるその日まで闘い抜く所存であります。
我々の裁判運動を支え、惜しみない御協力をくださった全ての人々に、心からの感謝の意を表するとともに、これからもかわらぬご協力をよろしくお願い申し上げます。
日本政府は、今からでもすすんで自らを省み、朝鮮高校生に「無償化」を即時適用し、過去7年間停止していた「就学支援金」を遡り支給するよう強く求めるとともに、国家や行政による「民族差別」をやめさせ、朝鮮学校児童生徒たちの学ぶ権利を保障する改善措置等をとるよう強く求めます。
(学校法人東京朝鮮学園、東京朝鮮中高級学校、東京朝鮮学校オモニ会連絡会)