広島無償化裁判、控訴審始まる
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国が朝鮮学校を高校無償化の適用対象から外したのは違法として、広島朝鮮初中高級学校を運営する学校法人広島朝鮮学園(金英雄理事長)と同校卒業生らが国に対して処分の取り消しや損害賠償などを求めた訴訟(広島無償化裁判)の控訴審が5月15日、広島高裁で始まった。
裁判は2013年8月1日の広島地裁への提訴から始まり、17回の口頭弁論を重ねて昨年3月8日に結審。広島地裁は7月19日、原告全面敗訴の判決を言い渡した。原告側は8月1日、地裁判決を不服として控訴した。
それから約9ヵ月。ついに控訴審の第1回口頭弁論が開かれることとなった。
この日の控訴審のスタートに合わせて、原告側の学園関係者と広島朝鮮初中高級学校卒業生、弁護団、支援者、そして在校生らが横断幕やのぼりを手に入廷行動を行った。
控訴人側(原告側)は昨年10月31日、85ページからなる控訴理由書を裁判所に提出。今年5月8日付では、朝鮮学校が制度適用の対象として認められることが前提となる制度設計をしていたとする前川喜平・前文部科学事務次官の陳述書を基にした準備書面も提出した。ほかに、原審では採用が認められなかった朝鮮学校に対する検証を申し出、前述の前川前事務次官らの証人尋問も申請した。
一方の被控訴人側(国側)も控訴理由書に対して反論する答弁書などを提出した。
法廷では、控訴人側から卒業生と朝鮮学園理事長が意見陳述を行った。
2011年3月に同校を卒業した男性は、学生時代に受けた自身の差別体験について語り、高校無償化の適用対象から除外されたことで言葉では表せないほどショックを受けたとのべた。男性は、裁判所が原告の控訴を棄却すれば、国側は裁判所の判断を盾に、これまでにも増して朝鮮学校に対する差別と圧力を強化するだろうとの懸念を表明。「政府による差別を裁判所が容認すれば、私たちはどこに救済を求めればいいのか」とのべ、今回の裁判が朝鮮学校やそこに通う生徒たちに対する日本政府や世間の差別意識を大きく左右するものであることを踏まえて、裁判所が正義と良心に従った正当な判決を下すことを求めた。
広島朝鮮学園の金英雄理事長(広島朝鮮初中高級学校校長)は、原告全面敗訴となった昨年7月の地裁判決を法廷で聞いて、「怒りと憤り、司法に対する不信が募った」と当時を振り返った。金理事長は、生徒、卒業生たちは結論ありきの不当判決に落胆し、それと同時に、権利獲得はあくまでも戦うしかないとの思いを強くしたとのべた。また、子どもたちの教育への権利は何人も侵すことのできない万国共通の平等な権利であり、国や自治体が政治的理由を口実にして朝鮮学校に高校無償化法を不適用にし、補助金を停止するようなことは決してあってはならないと強調、裁判官に公正で公平な判断を下すことを求めるとともに、朝鮮学校への訪問も要請した。
続いて、控訴人側の代理人である足立修一弁護団長が控訴理由について意見陳述を行った。
足立弁護士は、朝鮮学校を不指定とした国側の処分(原処分)の理由(①規定ハの削除、②規程13条に適合すると認めるに至らなかった)についてあらためて整理するとともに、理由①について沈黙し、理由②については、文科大臣の判断に裁量逸脱、濫用はないとした地裁判決(原判決)の問題点を指摘した。
足立弁護士は、控訴理由について、原判決が▼規定ハ削除についての判断を脱漏していること、▼朝鮮学校が「不当な支配」を受けているとの認定根拠も薄弱、▼他の外国人学校、日本学校と対比して不均衡な取り扱いがなされている、▼無償化法が教育の機会均等を趣旨とすることを前提に置かない判断をしていること、などを挙げた。また、原判決は高校無償化法の趣旨・構造を無視しているとし、無償化法の基本的理解について説明した。とくに、同法に国籍条項がないこと、教育の機会均等をはかるというのが同法の趣旨であることなどを強調した。
足立弁護士は、▼朝鮮学校は「高等学校の課程に類する課程」を置くと認められる各種学校であるので、就学支援金支給対象としての要件を満たす、▼したがって、朝鮮学校を無償化の対象と認めず指定しないのは違法であり、▼朝鮮学校で学びたい生徒の教育の機会均等を侵害していると主張。さらに、▼朝鮮高校は「高等学校の課程に類する課程」を有しているのに、「不当な支配を受けている」「適正な運営がなされていない」といった懸念を問題として不指定にするのは誤りである、▼ほかの外国人学校および日本の学校の生徒は規程13条の審査を受けずに就学支援金を受給している。朝鮮学校のケースと比べてここには著しい不均衡があるが、原判決はこれを説明できていない、▼規定ハにあてはまるほかの外国人学校と比較しても、政治的な問題を考慮したり、単なる懸念を問題とするなど規程13条の審査事項・基準が均衡を欠いていて、本来あるべき裁量の範囲を逸脱して不指定処分がなされたが、この著しい不均衡について原判決は合理的な説明ができていない、などとのべた。
足立弁護士は、朝鮮学校だけが不指定となったのは、同じ基準で判断せず、ダブルスタンダードを用いているからだとし、原判決最大の問題点として、審査方法、審査基準における不均衡を見逃したことを挙げた。また、厳密な意味での真実性がない事実で「不当な支配」を認定し、朝鮮学校に通う生徒たちの権利をはく奪したとのべた。そのうえで、規定ハ削除は無償化法の趣旨・目的に反し、裁量権を逸脱しており、憲法の平等原則にも違反している、規程13条は無償化法の委任の範囲を超え、無効であり、仮に有効だとしても朝鮮学校は13条の要件を満たすと主張した。
今回、裁判所は控訴人側が申請した証人の採否を留保。控訴人、被控訴人とも2ヵ月後をめどに追加の主張書面を提出することになり、裁判所はその結果を見て、証人採否を判断するとした。
控訴審の第2回期日は9月4日15時からに決まった。
口頭弁論終了後、弁護士会館で報告集会が開かれた。弁護団から今回の期日に関する報告があり、法廷で意見陳述を行った2人のほかに韓国の支援団体・モンダンヨンピルの金明俊さん、山本崇記・静岡大学准教授らが発言した。
控訴審に先立ち、13日には朝鮮学校の現役生徒、卒業生、教職員、関係者、地域同胞、日本人支援者らが参加して「朝鮮学校ええじゃないね! 春の平和パレード」が広島市内で行われた。雨の降るあいにくの天気となったが、参加者らは朝鮮高校に対する就学支援金支給、広島県・広島市の補助金交付の再開などをアピールしながら市内の通りを元気にパレードした。(相)