ツイッターで攻撃、脅迫容疑で書類送検
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川崎警察署は、ツイッターで川崎市在住の崔江以子さんを脅したとして、神奈川県藤沢市在住の男性(50)を5月18日付で脅迫容疑で書類送検した。
崔さんを差別的な言葉で再三、脅迫し、恐怖に貶めたのは、アカウント名「極東のこだま」を称する人物だった。
今回、送検の容疑としたのは、2016年8月10~13日、17年4月13日~5月5日のツイート。「極東のこだま」は、崔さんの個人名を特定し、「ナタを買ってくる予定。川崎のレイシストが刃物を買うから通報するように」「桜本のチョーセンはしね」などと書き込み、脅迫を続けた。また何者かによって職場にゴキブリの死骸が送りつけられたり、脅迫電話がかかってくることもあり、崔さんは嘔吐、じんましん、不眠といった苦痛を強いられていた。
崔さんは16年8月に脅迫事件として川崎警察署に告訴したが、被疑者特定に時間がかかり、昨年2017年末に捜索押収が行われ、その後の捜査の結果、脅迫罪の被疑者として18年5月18日に横浜地方検察庁川崎支部に送検された。被疑者は容疑を認めている。
対策法が成立した後、警察庁通達(16年6月3日付け)は、ヘイトスピーチへの「厳正な対処」を求めていたが、匿名によるヘイトスピーチ投稿者を特定し、書類送検するのは初めてのことだ。
崔さんは、生まれ育った川崎桜本が差別主義者の攻撃を受けてきて以来、差別をなくすために積極的に声をあげてきた。16年3月22日は参議院法務委員会で参考人として発言。国会議員たちがヘイトスピーチの深刻さを知ることとなり、桜本を現地視察。勇気をもって声を挙げたことが国会を動かし、同年5月24日にヘイトスピーチ対策法が成立された。6月5日の「川崎発 日本浄化デモ第3弾」も中止されるなど、法律は一定の効果を生んだが、「極東のこだま」は2月28日から崔さん個人への書きこみを開始し、執拗な攻撃を続けた。
書類送検を受け、5月24日、東京都内の司法記者クラブで崔さんと代理人弁護士らによる、記者会見が行われた。
代理人の師岡康子弁護士は、「崔さんは在日コリアンということで攻撃された。それも、被害を受けたと訴えたから、狙われた。変えられない属性を理由に狙われ、それがどれだけ大きな苦痛をもたらすか。私が許せないと思ったのは、子どもたちに我慢を強いることになり、崔さんは、自分が在日だから子どもたちに辛い思いをさせていると自分を責めていたこと。そのような辛い目に遭わせるヘイトスピーチを、ヘイトクライムの犯人を、許すことはできない」と語った。
また、「『極東のこだま』は娯楽のように気楽にツイートしているが、刑事制裁が科される犯罪だ。捜査で名前が特定され、自分がやったことが家族や職場に知られ、非常に恥ずかしい思いをする。今回の送検は匿名で差別を楽しむ者への強い警告になる。差別的な動機に基づくヘイトクライムだからこそ、大きな実害をもたらしている」として、「検察には略式ではなく、通常の起訴を求める。罰金ではなく、厳正な処罰によって、いかにひどい犯罪か、社会に示してほしい」と指摘。また、「ヘイトスピーチ解消法の不十分な点は、差別を禁止していない、明確に違法とはしていない」と現行法の欠陥を指摘したうえで、「国内人権機関を設置し、被害者が無料で救済してもらう、などの制度改善が求められる」と課題を強調した。
差別主義者が川崎へのヘイトスピーチを始めたことを機に、崔さんの生活は一変し、平穏な日々が崩された。「極東のこだま」の攻撃は1年9ヵ月に及んだ。崔さんが会見でこの月日を言葉を選びながら静かに振り返った。
「長い時間、執拗にインターネット上で攻撃をされて、正直、生きるのを諦めたくなる瞬間もありました。私が死ななかったのは、死ねなかったのは、降りかかった被害から守るためとはいえ、理不尽な制限のある生活を2年近く送り、多くの犠牲を払った子どもたちや家族がずっと私を肯定し、支えてくれたから。『差別はいけないと、オモニはあたり前のことを言っているだけだから、間違っていない』と。そんな家族に強いた苦痛を増やすわけにはいかなかったからです。
『 死ね』『いなくなれ』と言われないで、普通に暮らしたい。そう思って生活していただけなのに、繰り返される差別書き込みや脅迫によって、告訴せざるを得ない状況に追い込まれたのは、本当に厳しくつらいことでした」
崔さんの発言全文は、朝鮮新報の以下のサイトで参照されたい。
http://chosonsinbo.com/jp/2018/05/hj180525/
家の表札をはずし、小学生の息子さんとも街で一緒に歩くこともできない…。そんな状況のなかでも差別根絶を諦めなかった崔さんの苦しみと、「差別をなくしたい」と、この社会への希望を最後まであきらめなかった月日を思う。
現在も川崎には、深刻な問題が横たわっている。
6月3日に差別扇動者が川崎市教育文化会館で講演会を予定しているのだ。市が講演会開催を許可した場合、市民たちは3日13時から大規模な抗議集会を開くとしている。
各地でヘイトスピーチを続けている者たちは、在日コリアンはじめ、マイノリティへの攻撃の手を緩めるどころか、反省すらしていない。
この根は深く、多くの人を恐怖におとしめている。根絶への道は遠い。対策法2年の今、国会は、地方自治体は、果たすべき役割を果たしていない。強い怒りを感じている。(瑛)