「黒人ソング」についての考察 ~Childish Gambinoの楽曲から
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※今日はただただ趣味の話を書き連ねます。
最近、Donald Glover(ドナルド・グローヴァー)という人物に注目している。俳優や歌手として活躍するアメリカのアーティストで、ステージネームはChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)。
近年では「Redbone(レッドボーン)」という曲が大ヒットを果たしたそうで、かくいう私もそれを通じてChildish Gambinoという名前を知った。ちょうど昨年の今ごろ、朝鮮民主主義人民共和国へ発つ前日に入ったインドカレー屋さんの店内でかかっていたのだが(今後しばらく食べられなくなるから行っておこうと思って入ったのでよく覚えている)、イントロから引き込まれて、すぐにスマホの曲名検索アプリを起動した。
何度かそのまま曲を堪能したあと、和訳サイトで色々と調べてみる。歌い出しが一言、「Daylight(夜明け)」だったことに気づき、(うおーかっこいい)と鳥肌が立った。また、“Redbone”とは「色素の薄い黒人女性」「(主に黒人の)明るい色を持つ人、ハーフの人」「淡褐色の比較的明るめの肌の色をした混血のアフリカ系の人間」を指すということも分かった。
数多くある和訳サイトのうち一つを引用してみる。
http://ongakugatomaranai.com/childishgambino_redbone/
Daylight(夜が明けてくる)
I wake up feeling like you won’t play right(君が何か正しくないことをしてる気がして目が覚める)
I used to know, but now that shit don’t feel right(気づいてたんだ、今は君がしたことが正しいことだったとは思わない)
It made me put away my pride(僕のプライドを傷つけたんだ)
So long(さよならだ)
You made a nigga wait for some, so long(君は一人のニガーをずっと期待させていたんだ、だからさよならさ)
You make it hard for boy like that to go on(僕みたいな男は君と一緒にいることは難しい)
I’m wishing I could make this mine, oh(それでも、君が僕のものになるんじゃないかって気がしてるんだ)
歌詞の内容は一見、浮気した“Redbone”を想いすがる黒人男性のことを歌っているように読める。しかし、最近になって別の意味も考えられそうな気がしてきた。今年5月に発表された、Childish Gambinoの新曲「This is America(ディス・イズ・アメリカ)」を知ったことが再考のきっかけだ。
この曲も相当な話題になり、5月頭にMVが公開されてから約1週間で再生回数は1億回を超えたそう。私はなんの前知識もなく観たために最初はひどいショックを受け、硬直したまま最後まで映像から目が離せなかった。この先すぐネタバレになるので、未見の方で興味があれば、まずはぜひMVを検索して頂きたい。MVの冒頭シーンは以下。
―だだっ広い空間に椅子とギターが置かれている。後ろでは陽気で楽しそうなイントロが流れ、カメラがだんだんとズームアップしていく。すると右端から黒人の男性が登場しギターを弾き始める。カメラワークに合わせてChildish Gambinoが現れ、リズムに乗り身体を揺らす姿が画面に大きく写される。踊りながら先ほどの黒人男性に近づいていくと、いつの間にかギターは消え、なぜか頭に袋を被せられた状態で背筋を伸ばして座っている。Childish Gambinoがおもむろにピストルを取り出し、躊躇なく後頭部を撃ち抜く。…
どアップではないが、弾丸が貫通して頭から血が噴き出す場面も普通に見ることができ、(えっなに!?!?!?)と息が止まる思いがした。ここから曲調がガラッと変わり、不穏な雰囲気に。そこで歌が始まる、「This is America(これがアメリカだ)」。
MVを一度見終わったあと、すぐに和訳を検索。複数あったが、個人的にしっくり来たものを引用する。
https://www.youtube.com/watch?v=2Z84ahpw-3Y
Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah,
yeah, yeah, yeah, go, go away(イェイ、イェイ あっちへ行け)
イントロの部分である。(ん?)と思い、念のため「go away」の意味を改めて調べてみると、やはりその通りの意味が出てくる。(あ…初めからこんな感じだったのねー)とまた少し鳥肌が立った。曲中に黒人差別に対する直接的な表現が出てくることからも、この「go away」は黒人に向かって発せられたものであると想像できる。もしも英語ネイティブだったら、私のようにわざわざ和訳を確認してから再び映像を観るというタイムラグがない分、より感覚的な違和感を持つかもしれない。
Ooh-ooh-ooh-ooh-ooh, tell somebody
You go tell somebody(誰かに教えるんだ、教えてあげるんだ)
Grandma told me(ばあちゃんが言ってたんだ)
Get your money, black man (get your money)(黒人ならしっかり稼がないとねって(働かないと))
Get your money, black man (get your money)(黒人ならしっかり稼がないとねって(お金を持っていないと))
Get your money, black man (get your, black man)(黒人ならしっかり稼がないとねって(黒人は買われるのさ))
Get your money, black man (get your, black man)(黒人ならしっかり稼がないとねって(買われてしまうのさ))
Black man(黒人だから)
…
You just a black man in this world(おまえがこの世界では黒人であることに変わりはない)
You just a barcode, ayy(おまえがただのバーコードだということも)
You just a black man in this world(おまえがこの世界では黒人であることに変わりはない)
Drivin’ expensive foreigns, ayy(外国製の高級車を乗り回してるとしても)
You just a big dawg, yeah(おまえはいい仲間で)
I kenneled him in the backyard(庭で買ってた犬ほど仲がいい)
No proper life to a dog(だがあいつは犬の生涯を生きたわけじゃなかった)
For a big dog(“仲間”の人生も)
意訳っぽい部分も結構ある気はするが、心情的になんとなく伝わるものがある。
…と、ここら辺で先ほど書いた、「Redbone」の歌詞が失恋ソング以上の、別の意味としても読めるかもしれないということに話を戻したい。
「This is America」の歌詞を見ながら連想的に思いついたことだが、「Redbone」には「黒人は黒人であり、そのルーツから目を背けることはできない」というようなメッセージを当てはめることもできるのではないだろうか、と思ったのである。
先ほど、“Redbone”=「(主に黒人の)明るい色を持つ人、ハーフの人」という意味を書いた。この歌は、(すごく単純に書けば)「ハーフであるがゆえに自由なアイデンティティを持つ人」へ、自身のルーツと歴史に自覚的になることを訴えているようにも感じられる。
「Redbone」の歌詞には以下のような部分もある(冒頭で引用したサイトより)。
But stay woke(目を覚ますんだ)
Niggas creepin’(男たちが近づいてくる)※
They gon’ find you(奴らはきっと君を見つける)
Gon’ catch you sleepin’(君が寝ている隙に捕まえにやってくる)
Now stay woke(今すぐ目を覚ますんだ)
Niggas creepin’(男たちがやってくる)
Now don’t you close your eyes(目を閉じてはダメだ)
※「Niggas」を「男たち」と訳しているが、本来は「黒人」の意味。
そういう意図で上の歌詞を読むと、また違った見方も生まれてくるような気がする。例えば、「“黒人„として見られる瞬間が来る」「黒人ということから目を逸らしてはダメだ」というような。
また、「This is America」について考察しているネット記事の一つには、MVに登場するChildish Gambinoが上半身裸なのは、黒人解放運動家であるフェラ・クティという人物をインスパイアしているから?という説も書かれていた。比較写真を見ると、確かに格好が似ている。
その記事を読んだあと、たまたまYoutubeにアップされている動画を見つけた。アメリカの「The Tonight Show(ザ・トゥナイト・ショー)」というテレビ番組でChildish Gambinoが「Redbone」を披露している映像だ(トップの写真)。この時も同じく上半身裸で歌っていた。動画が公開されたのは17年1月だから「This is America」が発表されるよりずっと前だが、先ほどの「もう一つの意味」について考えると、ついついこじつけて考えたくなる。(理)
余談①
くしくも、月刊イオ2018年1月号の映画欄で紹介した「ゲット・アウト」という作品の冒頭挿入歌で「Redbone」が使用されていた。当時の記事にも書いた通り、この作品はアメリカの黒人差別を題材にした異色スリラーだ。映画の内容と歌詞が絶妙にリンクしている部分があり、それを意識して観るのも面白い。
余談②
「This is America」はやはりショッキングな映像だったようで、事前知識を与えずにこのMVを見た人たちがどんな反応を示すかというモニタリングをまとめた2次制作動画がいくつもYoutubeに上がっていた。みな初めは身体をくねらせるChildish Gambinoに笑って自身もリズムをとったりするが、ピストルが登場した瞬間に表情が変わり、本当に撃つのを目撃して驚愕する。
中には、複数の黒人たちにこのMVをすべて見せたあとで自由にディベートさせるような動画もあった。ほかに、白人2人が同様のことをしている動画も。双方がなにを話していたのか聞いてみたかったが、英語が分からず残念な思いをした。
一方で、「This is America」のインスパイア作品として「This is Nigeria(ディス・イズ・ナイジェリア)」という作品もアップされており、このMVをレビューした記事も興味深かった。
●インパクトは「This is America」以上?「This is Nigeria」MVが訴える”みんなが犯罪者”的ゲトーでリアルなナイジェリア
→http://www.jfmusicwritterclass.com/entry/this-is-nigeria-mv
余談③
なんと、6月29日(金)に日本で公開される映画「ハン・ソロ」(スター・ウォーズシリーズのスピンオフ)にDonald Gloverが出演していることに先日気づいた。歌手・Childish Gambinoではなく俳優としてのかれが見られるとあって、以前よりさらに作品への興味がわいた。しかも主要キャラの一人である。公開を待ちながら期待度が急上昇している。