司法への落胆、軽蔑…またもやヘイト判決/東京無償化裁判控訴審判決
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東京朝鮮中高級学校の61人の生徒が国に対し、就学支援金制度の支給を求めた東京無償化裁判控訴審判決が10月30日、東京高裁第101号法廷で行われ、朝鮮高校への不指定処分が「違法とは言うことができない」として、昨年9月の一審判決と同様、原告の請求が棄却された。無償化裁判は他にも大阪、愛知、広島、福岡で行われているなか、高裁判断が示されるのは9月27日の大阪に続く2ヵ所目だ。90席の傍聴席を求めて889人が列をなした。
●争点かくし、国を勝たせる詭弁
審理の過程で東京高裁は、文科省が朝高を不指定とした2つの理由(①規定ハの削除②規程13条の適合性)の関連性について、理論的に説明するよう促し、その過程で国は「2つの理由は論理的には成立しえないもの」と認めるに至った。しかし、裁判所はこのプロセスを完全に無視し、「本件省令改正をしなくても、本件規程13条に適合しなければ不指定処分をすることは可能である」と政治的外交的理由で規定ハをなくした経緯すら認定せず、無償化裁判の最大の争点である規定ハ削除の違法性についても、判断を避けた。東京地裁に続く不当判決だ。
東京高裁はさらに、「行政処分の成立と効力の発生は別問題」という審理にも上がらなかった論理を展開。「関係証拠によれば、不指定処分は遅くとも省令改正の官報公告がされるまでには、すでに成立していたものと認められる」という詭弁を展開した。何を意味するかというと、規定ハをなくす前に、文科省内部では不指定処分が成立しているから、本件不指定処分告知時に根拠規定がなくなっていても違法ではない、とのことだ。
13年2月20日に規定ハ削除が官報告示されたことは動かせない事実であるにも関わらず、同裁判所は、19日に行政処分が成立していたという暴論を展開した。
国を擁護するに留まらず、新たな理屈を持ち出してまで、「朝鮮学校差別」を社会全体にまきちらす司法―。法廷の外では、同胞や日本市民の怒りが渦巻いていた。
●弁護団長「最高裁判例に違反する」
判決言い渡し後に、原告側による記者会見が司法記者クラブで行われた。
喜田村洋一弁護団長は、東京高裁が「行政処分の成立と効力と発生は別問題」という判断を示したことについて、「明確に最高裁判例(1999年10月22日)に違反する」と指摘。「2013年2月20日に規定ハが削除されたにも関わらず、19日に不指定処分が成立している訳はない。行政処分は、相手側に到達した日に効力が発生するというのが最高裁の判例だ。高裁判決は最高裁判例に違反するということを改めて強調したい」と述べた。
また李春熙弁護士は、「最後の最後に逃げた判決だった。阿部裁判長の訴訟指揮をふまえると、裁判所は、一審判決が重要視した朝鮮学校の適正運営ではなく、省令を削除したことをしっかり認定するとしか考えられなかった。しかし裁判長は、規定ハの削除が内部的に成立していたから関係ない、不指定処分の真の理由は『規程13条』だとあっさりと認定した。国の矛盾について厳しく指摘したが、どこかでその決心が変わったのだろう。控訴審で議論したことの意味がない。地裁判決を踏襲しただけの判決だ」と非難した。
●原告の勇気、無駄にしない
記者会見では、原告や保護者も裁判所への怒りと絶望を伝えた。
原告の元生徒は、「とても悲しい悔しい判決でした。この裁判をきっかけに弁護士を目指しましたが、法律を学ぶ者としても絶望するばかり。本当は原告61人がここで悔しさを話してほしい。今日は後輩たちが裁判所に訪れたが、道の先に街宣車が停まっており、大きな声で『朝鮮人帰れ』と生徒や私たちに向かって叫んでいるのが聞こえていた。このようなことは、私が中高生の頃から変わらず、この裁判をすると決めたのも、裁判に勝利することで社会を変えたいと思ったから。絶対にあきらめません。私たちの主張が認められる日まであきらめません」と声を振り絞った。
東京中高に2人の子どもを通わせる保護者は、「今日の裁判で、裁判官は、『法服を着た役人』だと実感しました。政府に忖度することなく、人権や教育の権利を正しく守ることが裁判官の責務のはず。やってはならない人が、こうも簡単にやってしまう。良心があるのか、生徒たちの目を見られるのか、自分の親や子に誇れる仕事をしているのか。裁判官の目の前に立って聞いてみたい」と怒りを鎮めながら言葉を発した。
「子どもたちの『あたり前の権利』を学ぶ権利を保障するための闘いだということで、今日も絶対勝てると思って来た。しかし、やはりこの日本でなかなか難しいのかと。今日、やれることは、まだまだあると思っている。原告の勇気を無駄にすることなく、正義は勝つということを子どもたちに証明していくために闘っていく」
●1100人が報告集会へ
夜7時からは、東京都内で報告集会が行われ1100人が会場を埋めた。弁護団の発言、東京朝高生や東京中高オモニ会のアピール、大阪、愛知、広島、九州、海を越えた韓国からの支援のメッセージが続いた。
弁護団は8人が集結。生徒たちに悔しい思いをさせて申し訳ないと頭を下げる姿に、この裁判にかけた思いが伝わってきた。
松原拓郎弁護士は、朝鮮大学校で教えた学生たちが各地の無償化裁判の弁護を担っていることを挙げ、「かのじょたちが悲しむ姿を見たくてやってきたのではない。さらに立ちあがり、社会のうねりになるようにしたい。これからも一緒に闘っていければと思う」と言葉を振り絞った。
師岡康子弁護士は、「今日こそ、皆さんに喜んでもらいたかったが、残念で申し訳ない。判決を聞きながら裁判所に対する怒りと軽蔑を感じた。やってきたこととまったく違うこと書いていて、恥ずかしくないのか。国を許せないという気持ちだ」と思いを述べた。
金舜植弁護士は、悔し涙をにじませながらも、決心を伝えた。
「何度も学生に絶望を味わわせて本当に申し訳ない。最高裁ではっきりさせたい。4.24教育闘争が示す通り、希望と勇気をもって、進んでいく。勝つまで闘えば負けはない」
朝鮮学校の子どもたちを誇る言葉も続いた。
尹誠進・大阪朝鮮高級学校校長は、9月27日に下された大阪高裁判決に触れ、「本質的に日本の司法、政治の力に勝てなかった。民族教育をつぶすという国の姿勢は過去も現在も変わらない。しかし大阪高裁で負けたとき、生徒たちは10日後に控えた運動会を成功させ、今まで闘ってくれたアボジ、オモニ、同胞、日本市民に力と勇気を与えたいと奮起していた。涙が出ました」と教え子たちを誇った。
集会を締めくくった長谷川和男・「高校無償化からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」代表は、「私たちが勝つために何をなすべきか。住む地域、それぞれの活動の場で多くの仲間を誘い、この運動を広げていくため、世論を変えるために全力を尽くしましょう。来年2月、規程ハを削除した安倍政権に対して全国から怒りの行動を結集させ、成功させよう」と呼びかけた。
長谷川代表の「最高裁で勝利するぞ!」のシュプレヒコールに続き、8年間の闘いを象徴する「声を集まれ 歌となれ」の大合唱に鳴り響いた。
国を相手に裁判を闘う厳しさ、しんどさを感じながらも、訪れた人たちは、「明日」からの闘いを自問自答していた。
裁判、報告集会に参加された皆様、本当におつかれさまでした! がんばりましょう!(瑛)