GWに読書を―いま読みたい2冊の小説
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今週末から始まる10連休のGWですが、いろんなアンケートを見ると、10連休になる人はそんなに多くないし、「10連休なんか迷惑だ」と思っている人も少なくないようです。私も4連休にしかなりませんが、どこかに遊びに行こうかと思っています。いずれにせよ、できるだけお金をかけずに楽しみたい。
通学通勤時に本を読む人も多いかと思いますが、お金をさほどかけない休日の過ごし方として、読書があります。ということで今日は、最近読んだ本を2冊、紹介したいと思います。
一つ目は韓国の作家の本で、「別れの谷―消えゆくこの地のすべての簡易駅へ」(イム・チョル著/朴垠貞、小長井涼 共訳/三一書房/2000円+別)。
物語の舞台は、韓国江原道にあるローカル線の小さな別於谷駅。その名前は「別れの谷」という意味を持ちます。数名いた駅員が去り無人駅となっていく衰退のなかで、駅を取り巻く男女4人を主人公とした物語がつづられます。
物語は、秋、夏、冬、春の4つの章で構成されています。主人公たちの人生が、日本による植民地支配、解放から分断、朝鮮戦争、民主化闘争など朝鮮半島の近現代史で起こった出来事をちりばめながら語られていきます。
物語の半分以上を占める「冬」の章の主人公はスンネという老婆。いつもキャスターを引きずりながら歩くスンネはみんなから「鞄ばあさん」と呼ばれています。老婆は植民地時代を、解放後をどのように生きて来たのか、鞄の中に入っているものは何か? ぜひ本書を手にとって確認してほしい。
訳者は最後の作品解説で、著者のイム・チョルについて「朝鮮戦争や南北分断、イデオロギーの暴力による犠牲、といった問題についての作品を多数書いてきた」と紹介し、「イム・チョルの小説は美しいが重苦しい。そこには死と暗い過去、解決できない現実があり、さらに不透明な未来が待ち構えている」と評価しています。
二つ目は在日同胞作家の本で、「こわい、こわい―短編小説集」(黄英治著/三一書房/1800円+別)。
書名となっている「こわい、こわい」をはじめ13の短編小説が収録されています。筆者の他の著書もそうですが、日本の植民地支配の結果ここにいる在日朝鮮人である自分、分断された祖国を持つがゆえにここで様々な苦難を引き受けながら生きている在日朝鮮人である自分―筆者はそのことに徹底的に立脚して言葉を絞り出していきます。
そのことは、必然的に現在の日本社会に対する痛烈な批判、糾弾となって現れます。本書では、いまだに続く植民地主義であり、暴れまわるヘイトクライム。
筆者は「あとがき」で次のようにつづります。
「私たちは〈いま〉から逃走できない。〈いま〉が私たちの時代であり、〈いま〉を生きるしかない。だから私は、これからもこの〈いま〉ではない、別の〈いま〉を求めて細々とかきつづけていくだろう」
〈いま〉の日本に生きる朝鮮人である自分をすべて引き受ける―そのような筆者の思いがすべての作品から感じ取れます。
個人的に一番、心に残った作品は、「秀のおじさん」のことを書いた「あばた」という作品でした。群衆の中にできた「あばた」のようにへこんだものとは何か。これも、ぜひ本書を手にとって確かめてください。日本の人にたくさん読んでもらいたい本です。
紹介した二つの小説は、どちらも三一書房の本ですが、まったくの偶然です。
「4月ばか」から騒々しい日々が続く日本社会ですが、それは10連休のときにピークを迎えます。今日、紹介した2冊は、そんな日々に読むのに最適な小説だと思います。10連休の人もそうでない人も、GWの期間、手にとってみてはいかがでしょうか。(k)