学習会「教育における『不当な支配』とは」/東京無償化弁護団が企画
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東京無償化裁判弁護団が主催する連続学習会「改めて問う朝鮮高校無償化除外と日本社会」の第1回「正面から問う、『不当な支配』とは何か?」が6月24日、東京都文京区内で行われた。
高校無償化裁判は現在、大阪、東京が最高裁へ舞台が移り、愛知は控訴審が結審、九州は控訴中、広島は控訴審が続いている。勝訴は大阪地裁のみ、他は全敗の状況だ。
10年目になる無償化差別の本質は、文科省が朝鮮高校を指定するための決まり(規定ハ)を削除したことだが、国や裁判所は、朝鮮学校側に責任を転嫁し差別を正当化するため、「不当な支配」論を持ち出している。
学習会では、「不当な支配」についてより議論を深めようと、東京無償化裁判で東京高裁に意見書を提出した石井拓児・名古屋大学大学院准教授(教育法・教育行政学)が登壇。「教育における『不当な支配』とは何か」をテーマに講義を行った。
石井准教授は、2006年の教育基本法改正後の危険な動きの最も象徴的な事件が、「朝鮮学校の無償化除外」だとしながら、今まさに高等教育無償化によって、大掛かりな国家による「不当な支配」の装置が制度化されつつある、「これは日本の教育法体系の全体を揺るがしかねないものだ」と警鐘を鳴らした。
石井准教授は前述の意見書で、朝鮮学校側を負かした東京地裁判決の見過ごせない問題として2点を主張している。
1点目は、教育基本法16条に示されている「教育と教育行政の区別」につき十分な理解がなされていないまま無償化法が解釈されており、そのため、教育的判断を尊重するために設けられている審査会手続きが軽んじられ、結果として文科大臣の教育行政的判断に広範な裁量権を与えてしまっている。
2点目は、就学支援金支給の適否を判断する「高等学校の課程に類する課程」に含まれる「課程」という用語の解釈について、「課程には学校の組織及び運営が含まれる」とする独自の概念を持ち出し、無償化法の対象審査に、学校の組織や運営に関する事項が含まれるとしている点だ。
石井准教授は、戦後「不当な支配」の最たる主体は、特定の政党党派や組合、その他の団体等を意味し、教育行政は含まれないとした文部省解釈と、「不当な支配」の最たる主体は、地方公共団体の教育行政であるという教育法の通説的解釈とが激しく対立してきたものの、1976年5月21日の最高裁学テ判決がこの論争に決着を付け、国や地方公共団体の教育行政機関の行為にも「不当な支配」の適用があることが判例上確定したことを述べた。
また、その後、この判決への不満から教育基本法の改悪が、「憲法改正」と連動して進んできたと指摘。しかし国会における論議の過程でも教育行政が「不当な支配」の主体となりうることが確認されてきた経緯を振り返りながら、教育基本法の理念、最高裁判例からも確認された「不当な支配」の主体を、国や裁判所が「総聯、朝鮮学校」にすげかえ、私学教育の自主性と独自性がゆがめられている問題点について述べた。
90分にわたる講義の後、弁護団から感想や質問が出された。
金舜植弁護士は、「朝鮮学校だけに対して、『不当な支配』を持ち出すことに率直に疑問がある。イに分類されるナショナルスクール(韓国学校、ブラジル学校など)は、『不当な支配』が問題にされず、下村文科大臣も問題ないと話した。イに分類されれば不当な支配論が飛んでしまう。このおかしさがなぜ裁判所に通じないのか。他のナショナルスクールにも国家的な援助があり、民族団体との関係があり、国家が指定した教科書を使うのに問題とされず、朝鮮学校だけが問題にされる。不当な支配論を議論するバカバカしさがある。教育法学的に、裁判所の観点は通じるのか」と質問した。
これに対して石井准教授は、「重要な点だと思うがしかし、(裁判での敗訴が続き)これが特殊ではなくなっている危険な状態だ。以後、(教育行政が)支配をちらつかせ財政的に支援をするなど次々と要件を科したり仕組みを置いていくと、朝鮮学校だけでなく、あらゆる団体に問題が生じる可能性が高い。事実、大学は兵糧攻めの真っただ中だ。教育行政が『あなたの大学は批判的なことしか教えてないからダメだ』と言いだすと、研究内容の自主規制が出てくる。私は不当な支配論は今後も焦点になり続けると思う。不当な支配をさせないための、制度上の仕組み―例えば、専門家によって審査されるという仕組み作りは、むしろ可能ではないか」と答えた。
東京無償化裁判は現在、最高裁に上告受理申立て中だ。
東京弁護団が主催する第2回学習会は8月8日(18時半から赤羽会館、「対北朝鮮制裁の犠牲になる朝鮮学校」/鄭栄桓明治学院大学教員)、第3回は10月10日に開催される。
今後も、最高裁にしっかりとした判決を出してもらうような世論喚起に務めたい。本誌2018年7月号では石井准教授のインタビューを載せたので、こちらもあわせてお読みください。(瑛)